第1章 プロローグ
皆実の白くか細い腕に触れる。
シャツの袖をめくりあげると、硝子の言っていた注射痕がいくつかあった。
古い注射痕も何箇所かある。
でも――。
「11年ずっと血を抜いてたんなら、もっと痕は多いはずだよね」
とすれば、誰かが、皆実の呪力の器になっていた。
物が壊れるくらいの呪力、特級呪物と同等の猛毒を受け入れられるなら、それは特級呪術師しかありえない。
おそらくこの注射痕は呪力の器がいなくなった後に、できたものだろう。
「11年前なら皆実は5歳だろ。普通に犯罪じゃねーか、バカ」
そうでもして守りたかったんだろう。
小さな身体に非術師の呪いを刻んだ少女を。
『信用か。まだ私にそんなものを残していたのか。……なら、同じように。私も君への信頼を残すよ。もしものときは君があの子を助けると』
『あの子? 何の話……』
『コレ返しといてくれ』
ずっと分からなかった死ぬ間際のアイツの言葉。
「信頼も何も、ちゃんと説明しなきゃ助けらんないだろ。皆実と会う保証なんてどこにもないのに」
でも偶然か、必然か。
僕は皆実と出会った。
「ごめんね、皆実」
皆実の綺麗な顔に触れる。
僕の全部でこの子を守ろう。
アイツを救えなかった僕が、今度こそ。
この子を救った理由なんて、皆実のためでも、あいつのためでもない。
最低なくらいに。
「僕のため、か」