第8章 秘匿死刑
「皆実、床で寝るな」
声をかけるけど、皆実は目を開けない。
綺麗に揃った長い睫毛はピクリとも動かない。
眠っていると余計に思う。
人形みたいに綺麗だ、と。
こんなに綺麗な女の子に醜い呪いが集ってるなんて誰が思うだろうか。
まじまじと、皆実の顔を見つめて気づく。
きめ細やかな白い肌に、一筋の痕。
(……泣いた?)
皆実は冷めてるように見えて、意外とよく泣く。
涙は流してなくても、泣きそうな顔をよくする。
本当に呪いの器には向いていない女の子。
『虎杖悠仁に執行猶予をつけるなら、先日貴様が執行猶予をつけた呪いの器を即刻処刑しろ』
頭によぎるのは、虎杖悠仁の処刑について上層部に掛け合ったときのこと。
虎杖悠仁に執行猶予をつける代わりに、皆実を殺せとアイツらは言った。
『虎杖悠仁は両面宿儺を殺すための利用価値がある。だが、綾瀬皆実には何の価値もない』
そう、皆実を生かしておく価値はない。
そんなことは最初から分かっていた。
それでも生かしたのは、アイツの……たった1人の親友の、忘れ形見だったから。
「……だったんだけどな」
それだけなら。
それだけが理由なら。
僕はたぶん、恵を呪いそうになった皆実をあの時殺したと思う。
それくらいの冷静な判断はできる人間だと思ってる。
過信ではなく、本当に。
でも、僕は皆実を殺せなかった。
今回も、無理を通して皆実を生かしたまま、悠仁に執行猶予をつけた。
(それくらい、僕は皆実に感情を揺らしてるのにさ)
それなのに、強ければ誰でもいいなんて。
やっぱ納得できないだろ。
でもさすがに、泣かせるつもりはなかった。
ちょっとやりすぎたか。
「皆実、起きろ」
もう許してあげるから。
そう思って、皆実に手を伸ばしたら逆にその手を掴まれた。
「……っ!」
意識せずに触れられることには慣れてない。
不意打ちに負けて。
僕は、床に倒れた。