第8章 秘匿死刑
そんな私たちの耳に、向こうの会話が終わる声が聞こえてくる。
「今日中に荷物まとめておいで。……んで、オマエらはそこで何やってんの」
虎杖くんはいつのまにか2本目の宿儺を受け入れたみたいで。
用を済ませた五条先生が私と伏黒くんを見下ろして……あれ? 伏黒くんがいない。
きょろきょろと辺りを見渡したら、いつのまにか伏黒くんは私のそばからいなくなってた。
本当、いつのまに……?
「あれ、皆実じゃん。なんでそんなとこいんの?」
五条先生の後ろから、虎杖くんが茂みにしゃがみ込んでる私を見下ろした。
何してたかなんて言えるわけないから、適当な言い訳を口にする。
「盗み聞きしてた。あははー、ごめんね」
「盗み聞き? 別に堂々と聞けばいいのに」
虎杖くんは不思議そうに言って、五条先生へと視線を変える。
「それより荷物まとめろって……? どっかいくの?」
「東京」
声がしてそっちを見たら、伏黒くんが虎杖くんの背後にいた。
「伏黒! 元気そうじゃん!」
「包帯見てそう思うか?」
「元気じゃないのか……」
「ああ、いろいろとな」
虎杖くんの疑問に答えてる伏黒くんを見て、五条先生は小さなため息を吐く。
「恵のヤツ、逃げたな」
そうして五条先生は私のほうに顔を向けた。
目隠しの下、五条先生の眼に私はどう映ってるんだろう。
五条先生はしゃがみ込んで私の顎に指をかける。
「……キツそうな顔して」
五条先生はその唇を近づけてくる。
でも五条先生の顔は触れそうで触れない、ギリギリのところで止まった。
少し動かせば触れ合う距離を五条先生は詰めない。
私に触れてるから、そこに無限は存在しないはずなのに。
「……バカ皆実」
触れ合わないまま。
五条先生はそう呟いて、立ち上がった。
(バカは先生のほうじゃん)
酷いよ、今のは。