第1章 プロローグ
『五条の言う通り、あの子は呪力も術式も全部吸収して無効化する』
皆実を閉じ込めて、僕はまた硝子の診療室に戻ってきた。
すでに皆実の身体を可能な限り調べ上げた硝子が、その報告書を僕に投げ渡す。仕事が早い。
そして報告書の要点は口頭で伝えてくれた。
『無下限呪術も効かないから、五条の唯一の天敵になりえるね』
『ははっ、僕の天敵とかありえない。呪力使えないなら体術でどうにかするだけだし』
そもそも皆実が敵である可能性はかなり低い。
もし敵だったとしてもあの程度の呪霊に吊るされてしまうレベルの体術しかできないのであればまず僕の相手にはならない。
『で、報告はそれだけじゃないよね?』
『もちろん。五条が調べろって言っただけあってね。面白い子だよ、あの子』
硝子は白衣のポケットに両腕を突っ込んで壁に寄りかかる。
『あの子、本当に全部吸収してる』
『え?』
『嫉妬や嫌悪、それから憎悪といった非術師が出力してる微量な呪いを全部吸収してる。もちろん、範囲はあるだろうけど。それでも町一個分。人数にすると一万人分くらいの呪い』
『……じゃああの町に10年呪霊が出現してないのは』
『おそらく、あの子があの町で生まれる呪いの受け皿になってたから』
そうなれば話の辻褄は合う。
でもその一方で辻褄の合わないこともでてくる。
『じゃあなんで今回は呪霊が現れた?』