第18章 それぞれの道
「あの男…」
「お、男?」
「…お前もさっさとこの地方から出た方が身のためですヨ」
「???」
はインゴが何を言っているのか意味がわからず首を傾げたが、インゴはそれ以上何も言わず、またフェリーの方へと足を進めていった。本当にもう何も言うつもりがないのがよくわかった。
「ウッワー、超不器用。ボクには理解できないヨ----ま、インゴの言いたいことはボクも賛成。じゃ、ちゃん、再戦しに来てくれるの待ってるヨ!」
「またネ!」と言って、エメットもインゴの跡を追いかけていった。残されたは中途半端に上げかけた手を下ろした。思ったよりもあっさりと行ってしまったインゴとエメットに、は二人の背中を見送った。
「ねぇ!ねぇ!本当に言いたいことってあれだけ?二年間も探してたのに、なーんにも伝えないノ?」
「うるさい」
「まさかカッコつけてる自分に酔ってる訳じゃないデショ。言えばよかったのに。なんで好きって伝え----」
「Shut up!!!」
断絶するように叫んだインゴに、エメットは口を閉じた。インゴは怖い顔でエメットを睨み付けると、元々笑みを浮かべていたエメットの顔は、引き攣った笑みに変わった。
「あ、アハハ、言い過ぎた、もしかして?そりゃそーだヨネ、もう一人のちゃんはインゴじゃなくて、チャンピオンを選んじゃったからネ」
「…その口を今すぐ閉じないなら、今ここで縫い付けてやってもいいんですヨ」
「Oh、怖ぃ怖ぃ----でも、言ってあげてもよかったんじゃナイ?インゴは責任取るつもりでいたんでショ?じゃなきゃ、二年も探したりしないヨ」
「…」
「本当に伝えなくて、ヨカッタ?」
「…今更、何を伝えろと…」
悲しい声色で呟いたインゴは、エメットを置いてフェリーの中へ入っていった。エメットは不満げにインゴを見つめたが、インゴの意思は固く、変わることはない。どうしてに好意を伝えなかったのかも、エメットにはわかっていた。
(いい歳した男がフラれるのが怖いって、ティーンエージャーかヨ)
やれやれと呆れたエメットも、インゴに続いてフェリーに乗り込んだ。