第17章 始まりの一歩
【ヒロイン視点】
『調子はどうですカ?』
インゴさんの部下になって、もう少しで半年が経つある日、職場の廊下でタバコを吸っていたインゴさんに話しかけられた。
『…えっと、』
『…無粋な事を聞きましたネ。誰かさんのおかげで、ワタクシの出番はめっきりなくなって、退屈そのもノ』
『…すいません…』
イッシュ地方に帰りたかった。一年だけの契約だけど、イッシュ地方でこんな暗い気持ちになることなんて、一度もなかった。ただバトルが楽しくて、語って、職場の人たちに恵まれて、どれだけ幸福な場所にいたんだろうと思い知らされた。
『何かあれば、連絡してくださいまし』
研修で一年離れる私を、最後まで心配してくれたノボリさん。本当は何回も連絡しようと思った。でも、こんなことを相談していいのか、わからなかった。心配させたくなかった。
親戚のインゴさん、エメットさんと揉めてほしくなかったから…。私が我慢すれば、一年だけ我慢すれば、帰れるから……。
『…その陰気くさい顔をお客様に見せるわけにはいきません、来なさイ』
そう言って、誰もいない部屋についていくと、インゴさんは私に例の仮面を渡した。
『これを着けている間、誰の目も気にならなイ』
『お前も、楽しくバトルしたいでショウ』
私は、無意識にうなずいていた。この仮面を被れば、誰の心配もかけずにすむ。また楽しくバトルができるなら、この暗い気持ちから、少しでも逃げ出せれるなら----。
『イイ子ですネ…さぁ、ワタクシのシャンデラをよく見なさイ…』
『…フフ、あははは…本当だ、怖くない!どうしよう、インゴさん!私、今なら誰にも負けない気がする♡!ねぇ、インゴさん、今からバトルしましょう!』
人の目も、誹謗中傷の言葉も、陰口も、何もかも怖くなくなった。ただ目の前のバトルで何も気にせず、バトルをすることの心地よさ、ずっとコンプレックスだと思っていた優しさ----想いのまま戦うって、なんて、なんて心地いいんだろう。
これがあれば、グリーンにも、レッドにも勝てる…!
そうすれば、二人もやっと私を一人前のトレーナーだって認めてくれるはず!
『もっと、もっとバトルしたい♡どんなトレーナーが来たって、今の私に怖いものなんてない♡!』