第14章 悪夢は醒めない
優しさを捨てないでほしい----レッドはそう言わなかったけど、レッドの顔を見たら、そんな気がして、私は悲観的になることをやめた。
グリーンみたいに、強さだけを追い求めるだけの人間にもなりたくなかったから、私のできることから始めた。私だって二人に負けないくらい、ポケモンが大好きだから。ポケモンたちばかりに頼りにするんじゃなくて、私も成長しないとって、決心したんだ。
ポケモンの知識なら、レッドやグリーンにも負けない。むしろカントー以外のポケモンも全て知ってる。タイプや相性、技の威力や構成だって、ゲームで培った知識は、ここでも活用できるから。
何度もバトルに付き合ってくれたレッドに応えたいと同時に、いつかはレッドにも勝ってみたいって気持ちもあった。いつか絶対に追いついて、追い抜いてみせるんだって----。
『それはお前の癖なのですカ?』
イッシュ地方のバトルトレインで働いていた時に、研修でやってきたというインゴさんとエメットさんと出会った。エメットさんは気さくで、クダリさんに少し似ていて話しやすかった。
でも、インゴさんは違った。いつも不機嫌そうで、ノボリさんのような紳士さは1mmのカケラもなかった。だけどポケモンバトルの時だけはいつも真剣な表情だったのを覚えている。
インゴさんと何回目かのバトルを持ちかけられた時、普通の質問をされたのはその時が初めてだった。私は何のことか分からなかった。何かバトル中に変な顔か、動きでもしているのかと思っていた。
『な、何か変な顔とか、してましたか…?』
『…』
インゴさんは何も応えてはくれなかった。ポケモンバトル以外で、インゴさんが私にまともな会話をすることはなくて、嫌われていると思っていたから、私もあまりインゴさんに関わらないようにしていた。
やっとインゴさんとエメットさんが帰る日を迎えた時、私は内心ホッとしていた。インゴさんとの気まずい日々も終わると思ったその日。
『お前はワタクシ達と来るのデス』
もし、インゴさんのお誘いを断っていたら----もし、私がもう少し考えてさえいれば----あの時の後悔は、今でも私を苦しめて動けなくなってしまう。
ごめんなさい、クダリさん、ごめんなさい……ノボリさん。