第13章 囚われの心

【ヒロイン視点】


　どうしてこうなってしまったんだろう。

　私の後ろにいるインゴさんは、本当に優しく、壊物を扱うみたいに、優しく私の肩をなぞる。優しくしてもらっているはずなのに、体は震えてばかりで、機嫌でも悪くしたらどうしようって、そればっかりが頭の中を過ぎる。

　それでも今のインゴさんは随分機嫌がいいらしい。鼻歌がこっちまで聞こえてくる。時々背中に押し当てられて、肌を吸われている感覚は、もう何回目だろう。

　どうしてインゴさんにこんなことをされているのか、理解ができない。インゴさんとは初めて会った時から、インゴさんは私の事をよく思っていなかった。何か失礼なことでもしただろうかと考えても、思い当たる節はなかった。


　でも、もう無理だ。

　体は震えて言うことを聞かないし、逃げたらきっともっと酷いことをされることくらいわかる。それならこのまま優しくされていた方が、痛い思いをしないで済む－－－－だから、お願い、わたし。


　もう誰も助けにこないって、早く諦めて－－－－諦めたら、楽になるから、お願い…もう心が、壊れそうなの…。



「…よく泣きますね、お前ハ…」

　肩をなぞっていた片方の手が顔に回されて、私の流れる涙を優しく払ってくれたインゴさんは、本当に私の知っていたインゴさんなのだろうか－－－－もう、そんなこと、どうだっていいじゃん－－－－だって私の帰るところは－－－－。