第12章 踏み外したステップ
そう心のどこかで願っていた俺がいた。時間が立てどもあのバトルの記憶が鮮明に蘇ってくる。色鮮やかな赤と青の炎の先に見える、本気で俺を倒そうとする鋭い視線。
ようやく見せた彼女の中に潜んでいた勝利への渇望、強者との出会い、そして何より俺への期待。他の誰でもない、俺だけに見せた心。
それでも、彼女の視線の先はいつだって俺じゃない。俺の声は届かない。
どうして----。
あの時、俺たちの心はきっと同じだった。繋がった気がしたんだ。
どうして----。
俺を見てくれ、。そうじゃないと--------。
「ダンデ君?」
心臓に鉛を詰められているような、ドロドロしたものが俺の心臓を埋め尽くそうとしている。スピーチを終えて戻ってきた俺に、ローズ委員長は声をかけてくれた。
いつも通りを演じているつもりなのに、付き合いが長いせいと、委員長は人の感情を読み取るのが上手な人で困った。
「大丈夫です、ちょっと緊張してたみたいです」
どうしてだ、彼女には勝ったはずなのに。
バトルをすれば、勝てば、このモヤモヤした気持ちもなくなると思っていたはずなのに----またいつも通りの俺に戻れると思ったのに…。
会場全体にライトがつくと、見なければいいのに、俺はやっぱり彼女を探してしまう。遠目からでもわかる。紺色のドレスに包まれたが、誰を見ているかを----。
それでも俺には俺のやることがある。邪念は捨てなければいけない。俺は、このガラル地方のチャンピオンで、それに相応しい行動をしなければならない。
よくわからないこの気持ちに、振り回されてばかりいる訳にもいかない。
そう言い聞かせているのに、スポンサーと話している時にたまたま見えてしまったとキバナの近くなった距離に、ズキリと心臓にヒビが入る痛みが走った。
「…チャンピオン?」
「…ええ、ぜひやらせてください。きっと委員長も許可をくれるでしょう」
「ありがとうございます!企画書はまとまり次第、送らせていただきます!」
「お願いします」