第12章 踏み外したステップ
もうすぐ打ち上げ開始の時刻になる頃には、大広間にはたくさんの人で埋まっていた。周りの人間は背が高く、はルリナやネズたちから逸れないように気を付けていた。
そこへ、頭ひとつ分飛び抜けた人物が人波をかき分けてやってきた。紺色のベストとパンツに、白のカッターシャツ。オレンジ色のネクタイが鮮やかに目に飛び込んでくる。
「よ、お前ら!」
「キバナ君、遅かったんじゃな」
「ちょっとお世話になってるスポンサーに捕まっちまってよ」
「なんとか抜け出せた」と、キバナは悪戯っぽく笑った。
「お、ネズお前来てたのか」
「話がついたらすぐ帰る予定です」
「お前らしいぜ……って…」
キバナがとルリナの方を見ると、は魂が抜けたような様子でぼんやりと立っていた。
「ちょっと、」
(はああああああ妄想の100倍、いや1000倍かっこよすぎでは///!ベスト凄く似合ってた、死ぬ。尊い。歩く国宝。地上に遣わされた推し。一生推す)
隣でルリナがの肩に手を置いた瞬間、ビクッとは体を震わせて意識が戻った。
「我が人生に悔いなし」
「お、戻ってきた」
「あ、お目汚しすいませんでした。ベスト最高ですキバナ様///!!!」
「だろ?俺さま何でも似合うだろ?」
パチンと、片目を閉じて不敵に笑うキバナに、はグッと心臓を押さえ込んだ。
「この世にある服はキバナさまのためにあるので似合わない服なんてあるはずがないじゃないですかっ///!!」
「やめて、キバナさん。がおかしくなっていくわ!」
「はわわ…ど、どうしよう…!」
「…」
「さん中々過激なんじゃ」
キバナの色気に神を見るような目で崇めだすを、慌てて止めるルリナ、困惑するオニオン、ドン引きの目で二人を見るネズ、ニコニコとそれを見守るヤロー。
(…)
ネズは静かに後退り、その場を去ろうとした。これ以上一緒にいれば、おかしな仲間の一人と思われることを恐れたからだ。
「ネーズ。逃げんなよ」
「離してください。お前といると人が狂う」
「大丈夫だ、は元からああだ」
「…」
あと一歩というところで、キバナに腕を捕まれ、ネズは逃げることができなかった。