第9章 遠い存在
指通りのいい彼女の髪を撫でていると、身動きし始めたのために、まわしていた腕の力を緩めた。
「…ごめんなさい、取り乱しちゃって…」
「落ち着いたかい?」
「…少し」
「そうか」
「服も汚して…ごめんなさい…」
「気にしなくていい」
落ち着いた様子のだったが、まだ浮かない顔をしていて、謝ってばかりのに俺は苦笑いした。
「少し座ろうか」
の手を引いて、俺はリザードンのいるところへ戻った。リザードンは俺がを連れてくると、心配そうな顔をしていた。俺は大丈夫だと頷いて見せると、リザードンも静かに頷いて見せてくれた。
近くにあったベンチに腰掛けると、の手を引いて隣に座ってもらった。手は…なんとなく離してはいけないような気がして、繋いだままにした。
何があったのか、俺はすぐにでも聞きたかったが、きっとは答えてくれないだろうという確信があった。それでも、こんなに弱りきった彼女を放って置くこともできなくて、何から話せばいいのだろうと俺なりに迷った。
「…どうして、ここに来たんだ?」
「……」
この質問もいけなかったのか、は俺からそっぽを向いてしまった。
「…棄権するためって…言ったら、怒りますか?」
が、はポツリと話し出した。
「…は?」
「…やっぱり私より、ダンデさんと戦うに値する人がいるって…分かってたんですけど、私、ズルいから……知らない内にいろんな人を傷付けてたことに気が付かなくて…ごめんなさい、言ってることめちゃくちゃなんですけど…」
「俺との約束は、どうするんだ?」
「っ…ごめん、なさい…」
繋いでいる手から震えが伝わってきて、また涙声に戻っていた。
「…こっちを向いてくれないか」