第9章 遠い存在
ファイナルトーナメント決勝戦、は約束通り誰にも負けず、勝ち抜いてきた。俺と戦った時よりも、更に強くなった気がする。
ようやくバトルできる、彼女と、全力をかけて。
明日が待ち遠しくて、気が付けばポケモンたちのコンディションチェックを入念にしていたら、あっという間に時間が経っていた。明日の試合は午後からだが、寝過ごすことはない。
それでも明日の準備も怠らないために慌てて帰宅した。
「遅くなってすまない、リザードン。帰るぞ」
「バギュア」
リザードンに乗ろうとすると、リザードンはキョロキョロと周りを見ていることに気が付いた。
「どうした、リザードン?」
「…バギュ!」
「え…あ、おい!」
いきなり走り出したリザードンに驚いて、俺も慌てて追いかけた。そんなに距離はなかったが、リザードンは立ち止まって、少し離れたものを見つめていた。
「どうしたんだ、いきなり?何か……」
見付けたのか?、と言葉にする前に俺もリザードンが見つめている先のものを見つけた。誰かがローズタワーを見上げていて、こんな時間に訪れるなんて、少し変だなと思って俺は歩いて向かった。こんな時間に人通りも少ないタワー前に来るなんて、困ったなと思っていると、段々とその人物の顔がハッキリしてきた。
ローズタワーから発せられる光で、ハッキリと見えた。目から涙が溢れて、手で顔を覆ってしまったけれど、そこにいるのは、ずっと待ち焦がれていた----。
「----?」
「ダンデ、さん…」
ハッと顔を上げたが、ビックリして俺を見ていた。慌てた様子で乱暴に手で涙を拭って、無理やり作った笑顔が、痛々しく見えた。
気付けば俺は彼女の元へ走っていた。分からないが、このまま彼女を放っておくと、壊れてしまいそうな気がして、その涙を隠してほしくなくて----俺の腕の中に閉じ込めてしまいたかった。
は特に抵抗することなく、また静かに泣き始めた。
「…」
何があったか分からないが、俺はが落ち着くまで、壊れないように抱きしめた。