第9章 遠い存在
私は部屋に戻らず、ホテルから飛び出した。こんな状態で部屋に戻れば、部屋に置いてきたエレズンたちがビックリすると思ったのと、なんとなく部屋に篭りたくなかった。
シュートシティは街の明かりがあちこちにあり、9時を過ぎても街が静かになる気配はない。人もまだまだあちこち歩いていた。こんな泣き顔を見せたくなくて、私は人に見つからないように、ホテルのすぐ近くにったエスカレーターに乗り込んだ。
行き先は、シュートシティに聳え立つローズタワー。夜のせいなのか、人が一人も歩いていない。しかし、ローズタワーから発せられる光で周りは明るく、暗闇を怖がる必要はなかった。
止まってぼんやりとローズタワーを見ていると、ここでダンデが声かけてくれたことを思い出した。
(そういえば…手をいきなり握ったことで謝られたっけ…頭下げられてすごく焦ったなぁ…)
もう数ヶ月前の出来事なのに、何故か今鮮明に思い出せた。
(…明日、バトルできるかな…)
それなのに、ザワザワする不安で押しつぶされそうだった。
(みんな私が本気じゃないって分かってたんだ…隠せてるって思ってたけど…ダメだな、わたし…)
棄権してしまおうか----今ならこのままローズタワーに行って、受付の誰かに話してしまおうか----このままカントーに帰ってしまおうか----またジワジワと涙が溢れ出てきて、は手で顔を覆った。
「----?」
懐かしい声に、ハッとは顔を上げた。
「ダンデ、さん…」
こっちを驚いたように見ていた。
なんでここに?と思いつつも、早く涙を止めなきゃ、泣き止まなければ、心配させちゃだめだ、笑わなきゃ、笑わないと----。
「こんな時間まで仕事ですか、ダンデさん?明日はチャンピオンカップですよ?私もうすっごく楽しみで居ても立っても」
「居られなくて」と、言う前に、フワリと暖かいものに全身が包み込まれた。
「隠さないでくれ」
「…」
「ここには俺しかいない。大丈夫だ」
「……」
触れ合っているところからじんわり熱が移り、無理やり引っ込めた涙がまたジワジワと目から出てきた。
「だ、んで、さん…」
こんな弱った所、見られたくないのに、なんでだろう、今はこの温もりに包まれていたい…。