第9章 遠い存在
「泣かせちまった…」
バーカウンターのテーブルで顔を伏せて座っているキバナは、情けない顔でつぶやいた。あの後、すぐにの後を追いかけようとしたが、またしてもポプラに傘で殴られたのだった。
『泣かせたアンタが行ってどうするさね。もっと泣かせるだけだよ』
そう言われては、何も言えなくなり、今に至る。
「俺もそろそろ帰りたいんですが」
「ふざけんな、付き合えよ」
ほとんどのジムリーダーがホテルの部屋に戻っている中、残っているのはキバナとネズだけだった。キバナはすっかり酔いが覚め、自分がしたこと、言ったことに後悔していた。
帰ろうとしたネズもキバナに捕まってしまい、今はアルコールではなく、炭酸を飲んで過ごしていた。
「…あいつに、何があったんだろうな…普通じゃなかった」
「まだ探る気ですか…お前もめんどくさいやつですよ」
「…うるせぇ…気になるだろ…泣かせちまったし…」
キバナは不貞腐れて言うと、自分の手を払って泣き出したを思い出すと、眉間に皺を寄せた。その様子を見たネズは、内心ため息をついた。
「なんで男のお前を俺が慰めなきゃいけないんですか…」
「冷たいこと言うなよ!同じジムリーダー同士だろ!!」
「関係ねぇですよ、そんなこと」
この調子だと、夜はまだまだ長いだろうなと、ネズは遠い目で部屋の窓を見た。
「----俺思うんだけどよ、アイツって近くにいるように見えて実は遠いんじゃないかって」
「…はぁ?」
「なんて言えばいいか分からないが…」
「…」
「俺さまたちの知らないうちに居なくなってそうな…なんてな、まだ酒が抜けきってないみたいだ」
「…」
『帰りたい』と言ったを、ネズは思い出していた。そして感がいいキバナに「彼女はいずれガラルから去る」と言おうと思ったが、まためんどくさそうになりそうな気がして、残りの炭酸を一気に言葉と飲み込んだ。