第9章 遠い存在
は小さく体を震わせ、両手で体を抱きしめていた。顔を下に向けていたが、横にいたネズにはハッキリ見えていた。ギュッと目を瞑り、まるで怯えているようだった。
止めなければと、ネズが口を開いた。
ゴン!----突然、そん場に似つかわしくない音が部屋に響いた。
「いってぇえ!!!」
「なんだい、女の子一人に寄って集ってアンタたち、それでもジムリーダーかい?」
「ぽ…ポプラ、さん…」
ポプラの手には、いつも持っている傘が握られていた。キバナは殴られたと思われる頭を押さえ、打たれた頭に手を当ててしゃがみ込んでいた。
「いきなり何するんだよポプラさん!!」
そしてキバナはすぐに立ち上がると、怖い顔でポプラを睨みつけた。そんな怒っているキバナに、ポプラは1mmも臆さず、むしろ曲がっていた背筋をシャンっと伸ばし、静かにキバナを見据えた。
「本気を出してもらえなかったからってなんだい、アンタが弱かっただけの話だろう!この子はこの子なりに相当捻くれてるけど頑張ってるさね。それを自分の責任だとか言って、この子が選んだ道を、アンタが否定するんじゃないよ!」
「!!」
はっきりと物申したポプラの迫力に、キバナたちジムリーダーたちはたじろいだ。
「さっさと部屋に連れてって休ませてあげたほうがいいさね…明日は大事な試合がある」
落ち着いた声で言ったポプラは、またいつもの曲がった背中に戻っていた。ハッとキバナは振り返ると、震えているに気がついた。
「…」
顔は見えなかったが、その様子からしていい状態ではないことに、キバナはどうにかしなくてはと、手を伸ばした。
バシッ、とはキバナの伸ばされた手を咄嗟に弾いた。
「ぁ…ご、ごめんなさい!」
咄嗟だったとはいえ、それがキバナの手だと気が付いたは、ますます震えて顔を青ざめさせた。
「違っ…ごめ、んなっさ……っ!」
「「「!!!」」」
ポロっとこぼれ出したの涙に、キバナは体が硬直した。
「わ、わたし、一人で戻れます、からっ!!」
はその場から逃げ出すと、振り返りもせず部屋から出ていった。部屋には重い雰囲気に包まれ、ネズはいつもより大きなため息をついた。