第9章 遠い存在
(こ、怖い!!!)
いつものご機嫌なキバナだったら、はその笑顔だけで軽く天元突破できただろうが、自分の頬を引っ張りながら笑っているその姿に、は段々恐怖を感じ始めた。
(ネズと話してる間に何があったの?!)
ヒリヒリする頬に、はキバナの手を引き剥がそうと足掻くと、手は離れるどころか、力が少し込められて余計痛くなった。
「もっ…いひゃい、です、キバナ、しゃま…!」
目にじんわりと水の幕が張り出した。
「おい、やりすぎですよキバナ!」
キバナにのし掛かられ、動けないネズが抗議の声をあげた。
「その辺にしてあげてほしいんだな、キバナ君」
そこへ、体格の大きいヤローがの頬を摘んでいるキバナの手首を、がっしりと掴んだ。ニコニコしていたキバナは、邪魔されたと思ったのか、笑顔からムッとした不機嫌顔になった。
「邪魔すんな、ヤロー」
「さん痛がってますよ」
「…」
渋々といったように、キバナはの頬から手を離した。ジーンと鈍い痛みが頬にあり、は手で頬を抑えた。ついでにヤローは、ネズにのしかかっているキバナを持ち上げて、退かしてあげていた。
「、大丈夫?」
すぐにルリナが駆けつけて来てくれて、バーテンダーに氷嚢を持ってくるよう話していた。
「…ったく…飲ませすぎなんじゃないですか、メロンさん」
「あら♡?そうだった?」
メロンは悪びれる様子もなく、残っていたグラスのアルコールをぐいっと飲み干した。
「だって彼、何か悩んでそうだったから…お酒飲ませて吐き出させてやろうって思ったのに、あなたたちの方に行っちゃうんだもの」
「はぁ…めんどくせぇもの寄越さないでくださいよ」
「でも悩みの種が、ちゃんって分かったじゃない♡」
「私?!」
メロンから急に自分の名前が飛び出し、はバーテンダーからもらった氷嚢を頬に当てながら、驚きの声を上げた。