第9章 遠い存在
特にそこから会話はなく、ちびちびとオレンジジュースを飲んだ。
黙っていても、不思議と話をしなくてはいけないという思いもせず、はぼんやりしながら、オレンジジュースに映る自分を見た。
「----明日、ダンデに勝つ勝算はあるんですか?」
先に口を開いたのはネズだった。
チラリとネズの顔を伺い見ると、いつもと変わらない表情のネズと目があった。
「うーん…どうでしょう…ダンデさん強いから」
カラン、とグラスに入った氷を回しながら、は困ったように話しだした。
「でも簡単にやられてやる気はないです」
一瞬、の顔が引き締まり、雰囲気が変わったことにネズは静かにを見た。
「舐めプのお前がどこまで戦えるか、見といてやりますよ」
「な、舐めプってなんですか!」
ネズの口から意外な言葉が飛び出し、はビックリしてネズを見た。
「そのまんまの意味です。このファイナルトーナメントに、あのポケモンを出さなかった。出せばもっと楽に勧められたんじゃないんですか?」
少し声を潜めて言ったネズに、はドキッとしたが、視線をすぐに手元のオレンジジュースに戻した。
「…楽しみは、取っておきたい方なんです」
「楽しみ、ね」
意味深なことを言われ、は居心地悪そうに視線を遠くへ向けた。しかし、ネズはそれ以上聞いてくることはなく、はホッとしながら、手に持っていたオレンジジュースのグラスを持ち上げて、一口飲んだ。
「----あの子のこと、黙っててもらってありがとうございます」
少しして、は口を開いた。
「別に大したことじゃありません」
「でも…色々迷惑かけたっぽいですし…」
「放っておけばいいんですよ、そんなこと。お前が気にする必要はないです」
「ネズさん…(やっぱりいい兄貴)」
は改めてネズが好きだと思った。
とっつきにくいところもあるが、根はいい人であり、人に気を使わせないようにするのが本当に上手だと思った。聞かれたくないことは、あえて踏み込みすぎないように身を引いてくれるのも、すごく助かっていた。
明日の試合が終わったら、帰る前にまたスパイクタウンに寄ろうと思っていた、その時だった。