第9章 遠い存在
ナックルジムのスタジアム内では、すでに観客がいっぱいになっており、試合が始まらないかと今か今かと待っている様子だった。
フィールドの真ん中には、すでにキバナが立っており、彼もの到着を待っていた。
ワッと会場の声が大きくなると、がスタジアムに到着したことがわかり、キバナはこちらへ歩いてくるを目の前まで来るまで見た。は何故か右手を隠して歩いていた。
人の多さに緊張しているのか、それともキバナに見られているせいなのか、心臓がドッドッドッドと、心臓が大きく鼓動した。
「さてさて、まずはここまで逃げずに来たことを褒めるべきか?それとも引き返すか?…ま、引き返すにはもう遅すぎたかもしれないけどな」
キバナは意地悪く笑って見せた。
「もう逃げなくていいのか?」
なのに、その一言がまだどこか気遣っているように聞こえた。は薄く口角を上げて、キバナを見上げた。
「…いいえ、このまま勝ち逃げさせてもらうつもりです」
「!」
「ここで止まれないんです」
「…アイツか?」
「っ!」
突然、キバナからピリッとする空気が流れ、はゾッと体を震わせた。
「悪いが俺も止まる訳にはいかねぇ…アイツは、ダンデは俺さまが倒すって決めてるんだからな…ダンデに勝つ、それがどれだけ難しいか、アイツのライバルである俺さまが叩き込んでやるよ!」
ギラギラと、まるでドラゴンに睨まれたかのような、キバナの気迫には息を呑んだ。キバナに隠していた右手が、咄嗟にギュッと胸あたりのユニフォームを握り込んだ。
(この目、本気だ…すごい、本当にドラゴンみたい…///----私も集中しないと)
は目を閉じてフッと息を日一つ吐いた。油断は絶対に許されない相手だけに、緊張を感じながらも、冷静になれと自分を落ち着かせた。
そしてパチリと目を開けてキバナを見据えた。
(いい目してるじゃねぇか---)
スッと雰囲気が変わったを、キバナは目を細めて見た。そしてゾクゾクと肌を駆け巡る武者振るいに、相手が手強いことがわかる。
(ダンデ、俺は一度だってこいつを甘く見てないぜ…だってこいつはお前が目をつける程の危険を潜めてることに気が付いてるんだからな…)