第9章 遠い存在
この旅が終わったら、カントーに、マサラタウンに、私の家に帰える。初めからガラルに来て、観光がてらキバナ様のグッズを勝ったらさっさと帰ろうと決めていた。
なのに、物に釣られて、約束をして、最初に決めていたことが後回しにしてきた。旅なんて、途中で辞めればよかったのに、あの力強い黄金の瞳を思い出すと期待してしまう自分がいた。
きっとこの人とバトルをすれば、もしかしたら----。
なんて、淡い期待を抱いている。たった5分間のバトルだったけれど、全力で楽しんでいるダンデを見て、羨ましくなった。どんなバトルでも楽しく、仲間と乗り越えてきたはずなのに、いつしか負けることへの恐怖が知らず知らずの内に自分を蝕んでいた。
『負けることは許しません、負ければ……』
今でもこの言葉が頭の中で思い出すし、夢にも見る。早くこんな悪夢から覚めたい、バトルなんてもういいから、帰りたい。あの平和なマサラタウンへ帰って、家族と暮らして、時々幼馴染と会ったり、オーキド博士の手伝いをしたり……。
「…ちょっと、疲れちゃったんだ」
私は上手く笑ったつもりだったのに、マリィちゃんの顔が悲しげにこっちを見ていて、あぁ失敗したって思った。
そんな視線から逃げたくて、姿勢を正すと、怖い顔をしたネズさんと目が合って苦笑いした。
「じゃあここは!?さん、スパイクタウンじゃあかんと?」
「え?」
突然声を上げたマリィちゃんに、私はびっくりして彼女を見た。
「私はさんともっと一緒におりたかっ!もっとバトルも習いたいし、ポフィンも美味しかった!アニキもさんのこと気に入っとるけんここに帰って来ればよか!」
「え/////???!」
「マリィ!!!」
「マリィもさんのこと好きやけん、ここに帰ってきてほしか!」
真剣なマリィちゃんに、私は石化した。こんな天使に好きって言われて、石化以外の何があるの?天元突破超えなんて楽勝すぎた。あぁ…キバナ様…ごめんなさい…。
「私、マリィちゃんとけっk」
「さっさと行きやがれですよ、マリィはやりません」
「…じょ、冗談ですよ…」
ネズさんからかつて無い眼差しを受けて、私とマリィちゃんとの交際は幕を閉じた。やっぱりシスコンだったな、ネズの兄貴…。