第10章 春が来りて 前編 お相手:冨岡義勇
夕方に冨岡さんの鴉の寛三郎が
今日戻ってくるとの
冨岡さんからの手紙を届けてくれた
私は冨岡さんの継子として
冨岡さんが任務で留守の間
この水屋敷を守っていたのだけども
ちゃぶ台の上には
ラップをかけて小鉢に入った
冨岡さんの好物の鮭大根がある
後 白和えと漬物とお味噌汁
後 お風呂も沸かしたんだけども
みくりが柱に掛かっている時計を見ると
時刻は夜の9時前だった
帰ってくると言っていた時間は
もうとっくに過ぎていて
「冨岡さん、……遅いなぁ…
まだお戻りにならないのかなぁ?」
もしかしたら
帰路の途中で別の任務に
そのまま向かってしまったとか?
でも それならそれで 鴉を飛ばして
くれそうな気もするけど
スッとみくりが立ち上がって
せっかく沸かしたお風呂が
ぬるくなってしまってるだろうし
沸かし直そうかと立ち上がり
風呂の釜に火を入れ直した時
ガラガラと玄関が開く音がして
「みくり、……今、戻った」
と玄関で言われても
こっちまで聞こえないような
小さな声で この屋敷の主が言った
パタパタと足音がこちらへ近づいて来て
みくりがこちらへ向かってるのが分かった
「おかえりなさいませ、冨岡さんっ…って」
義勇の姿を見た
みくりが声を上げる
そして義勇の両肩を指さした
義勇が肩を貸していたのは
酔っぱらって酔いつぶれた
炎柱の煉獄杏寿郎と
同じく柱の宇髄天元だったからだ
「え?何故お二人は…こんなにお飲みに?
と、言うより、どうして、……こちらに?」
義勇は仕事を終えて
こちらへ戻って来ていたはずなのに
何故か帰りが遅くなっただけでなく
その上
酔っ払いの柱を
ふたりも連れて戻って来たのだから
「それを、説明すれば長くなるが。
生憎……、俺は…説明が苦手だ…」