第33章 絶対君主のお気に入り お相手:煉獄杏寿郎 Rー15
第2夜 新しい日常
目が覚めたら 元通りなんて
そんな甘い現実は無かった……
夜明けと共に起床する
それはいつもの癖だから
寝るのが昨日は遅かったが
いつも通りの時間に
みくりは目を醒ました
部屋に昨日のスルタンの侍女が
数人押しかけて来て
と言っても布団とあと少しの物しかないような
そんな狭い部屋に全員が入れる訳もなく
荷物を全部運び出されて
いや 量はたかが知れているのだが
そのまま 朝から湯殿へ連れて行かれてしまって
昨日着せられた透け感のある
織物の寝巻をはぎとられて
またしても 自分で身体を
洗う事も許されずに
極上の絹で出来たドレスに
着替えさせられてしまった
ドレス自体は質素な作りではあるが
サイドのスリットは深く
胸の谷間の部分は全て出る様な
そんな普段用のドレスで
この様な胸を強調するデザインのドレスは
一介の侍女が纏う物ではなくて
髪の毛を丁寧に櫛で梳かれてしまって
そのまま結い上げられてしまった
その結い方の形もまるで
私がいつも朝に椿姫様に
施していた様な……
そんな髪の結い方で
ー『アンタは、愚図でノロマで
無能だけど……、
髪を結うのだけはまともね』ー
言い方はいつものとげとげしい
感じの口調ではあったが
毎朝 侍女は他にも居たが
椿姫様の髪を結うのは…私の仕事だったのだ
「椿……姫様……」
もう この後宮にその人はおらず
私がその人の髪を結う事は
もう二度とないのだと
そう急に実感してしまって
知らず知らずの内に
自分の目から涙が一筋
頬を伝い落ちて 零れていた
「みくり様、こちらを」
そう言って小さな食前酒を入れる様な
そんなグラスを手渡される
ツンと鼻に付くような匂い
お酢だ……その液体は白く濁りがあり
砕いた真珠がお酢に溶かされた物だと
すぐに分かった
私が作ると…ダマが出来ていて
飲めたものじゃない……と
床に零されたことも……あったな
と思い返すと
さっきまでしんみりしていた
気分が 嘘の様に消えてしまって居た