第33章 絶対君主のお気に入り お相手:煉獄杏寿郎 Rー15
いや 時折浮いているのではなくて
終始 ふわふわと浮いた様な
そんな印象を受ける打ちまわしだ
守っているのでもなく
攻め込んでも来ない
だが…着実にこちらの攻め手には
こうも……見事にその道を断ってくる
鋭いのかと言えば ふわふわとしていて
ふわふわとしていると言えば
そうでもない
その静かに盤面を見つめる姿は
さながらに……風格すら感じる……か
ふっと杏寿郎が口の端を上げると
「悪くない……な」
そう漏らした
「もういいぞ。十分に
楽しんだからな、君は
自分の部屋に下がるといい。
後、自分の荷物を纏めて置くといい。
新しい部屋を用意させよう」
そう突然
解放されてしまって
まだ対局も途中だと言うのに
部屋に戻されてしまった
自分の使っている
私室に戻る
侍女が使っている
この小さな寝るスペースぐらいしかない
簡素な部屋に戻るもの
昨日の朝まで居たはずなのに
もう随分と久しく感じる
荷物を纏めて置けと言われた
確かに椿姫様はおられないのだから
その侍女である私には
明日からの仕事はない
その証拠に 自分の
使っていた部屋の周りの
部屋には寝ているはずの時間なのに
人の気配がない
いとまを……出されて
他の侍女達はもう実家にそれぞれ
戻ってしまって居る様だった
とは言えども
自分の部屋に戻って
どっと疲れが一気に押し寄せて来て
そのまま…自分の布団に潜り込むと
すぐに眠りに落ちて行ってしまった
夢の中での私は……
いつもの通りに
椿姫様に怒鳴られながら
仕事をしていて
ああ これが
私の日常だったのだと……
その夢の中で気付かされる…
信じられないような事ばかりが
次から次に起こって
そっちが夢だったんじゃないかって
そんな気さえしてしまう…
全部……夢であってくれたのなら
次に目が覚めた時には
元通りの 日常に…
戻って居たらいいのに
そんな事を どこか……
心の奥底で考えていた
第1夜
無能な侍女
ー終ー