第33章 絶対君主のお気に入り お相手:煉獄杏寿郎 Rー15
第1夜 無能な侍女
お父様 お母様
親不孝者の私を……どうか
どうか…お許しくださいっ……
その日 私は朝から
生きた心地が全くしなかった
これが 悪い夢なら
どれほど良かっただろうか
そうも 願いもしたが
どうにも これが現実で…
私は この後宮の主である
煉獄杏寿郎様の10番目の妻である
椿姫(つばきのひめ)様の
侍女をしている
いや しているではなくて
していた……のだ
今朝…ご起床のご挨拶に椿姫様の
寝室を訪れた時には…すでに
そこには 私の主の姿はなく
天蓋の付いたベットの寝具は
すっかりと冷え切っていた
テーブルの上に残された書置きを
私の声を聞きつけて
部屋に集まった 従者頭に見せた
後宮から王様の妃が脱走…したとあれば
国中が大事になるのは必須で
騒ぎを大きくしてはならないと
私は… すぐに 咎めを受ける事もなく
この東の塔にある とある部屋に
重要参考人として幽閉…されている
スルタンは……朝からご公務がおありだから
「詳しい話は、夜に聞く」
とだけ言い残して
自分の妻が 言わば家出をしたのに
慌てた様子など一切見せずに
いつもの 表情を崩すこともなく
そのまま
公務の為の執務室へ向かってしまった
スルタンが私に事情を直接聞くと
仰せになられたので
私は一切の外界との接触を遮断され
ここに 閉じ込められている…訳だけど
遥かに手の届かない場所に
換気の為だけに作られた
小さな窓があった
そこからは 知らぬ間に
夜になっていた様で
僅かに 星空が見える…
こんなにも…
その小さく切り取られた星空を
美しいと感じている自分が居て
ここにスルタンが来れば…
私は事の責任を負って
その場で…斬首…される と言う事も
可能性としては十分にある訳なのだから
こうして 星が見れる時間が…
自分に残されていた事を
神に感謝して祈りを捧ぐ事位しか
私には 出来なかった……