第28章 可愛い君に……は お相手:煉獄杏寿郎
あの時 ちゃんと達する手前で
なあなあになってしまったから
あれからもじもじとして
身体の疼きを持て余してる
そんな自分が居るのもまた
紛れもない 事実で…
そんな どうしようもないような
そんな事を考えながら
ふと 視界に壁に掛かっている
杏寿郎さんの予備の隊服が目に入った
綺麗に洗濯はしてあるが
その隊服を衣文かけから外すと
すぅーーッと その隊服に
みくりが鼻を寄せて
匂いを嗅いだ
洗剤の香りの奥の方から
杏寿郎さんの陽だまりのような
そんな匂いがしてきて
いい香り…だな 杏寿郎さんの匂い
スッと瞼を閉じて
その匂いを嗅いでいると
彼に杏寿郎さんに抱かれている様な
そんな錯覚を覚えてしまうが
あるべき体温も
重みも感じない
その現実に引き戻されて
虚しさが積もる
「……寂しい……」
ひとりぼっちだからなのか
その言葉がついて出てしまった
夜になれば
お屋敷の使用人の人も
母屋からは出てしまうし
今 この建物に居るのは
私ひとり…なのだが
広いお屋敷にひとりだから
こんなにも寂しいと感じるの?
部屋を見回すと
彼が手紙を書くのに使っている
文机が目に入って
それに向かって
文をしたためる彼の
背中にもたれ掛かって
字が歪むと怒られたのを思い出した
こんなにも 部屋……
広かったんだ…
私がこうしてる間も
杏寿郎さんは仕事をしてると言うのに
寂しいとかそんな事を
考えてちゃダメだ
そう思って
自分の布団に潜り込んだ
までは……良かったけど
どうにもそわそわしてる
身体の芯が熱を持って疼いてる
杏寿郎さんは
戻ったら 続きをしようと
そう言ってくれてたけど
ちょっとくらいなら
自分でしても…いいよね?
自分でしちゃダメって言われてないし
ちょっとだけ……なら
杏寿郎さん いつ帰って来るか
分からないし…ちょっとだけ…