第76章 ふたり 一人独り 中編 お相手:煉獄杏寿郎 現代パロ
「…―――ッ」
思わず スカーフで隠れている跡を
その上から隠すように自分の手で覆って
あの時は こんなに濃い跡を付けてと
杏寿郎が帰って来たら文句を沢山
杏寿郎に言ってやるつもりだったのに
今は この杏寿郎の残してくれた跡が
私が彼の奥さん
なんだって証拠だから
ピタッと河田が歩いていた足を
1軒の居酒屋の前で止めて
「あ。店、ここね?ここのさ、
牛筋の煮込みと、おでん、美味しいから」
どんな店なのかと思ったら
普通に普通の居酒屋で
デートとかで使う様な
お洒落な居酒屋と言うよりは
サラリーマンが上司の愚痴を
大将にぐでんぐでんになりながら
カウンターで漏らしてそうな店で
予約しとくって言ってなかったっけ?
ここって予約…とかしてる?
予約とかって概念から無さそうな感じ
「どうしたの?そんな顔して。
ああ、予約?それは2件目ね。
さ、さ。入ろう、入ろう」
そう言って 居酒屋の暖簾をくぐった
ーー
ーー
ーー
突然通話が切れて
電話の向こうで河田の声がしてたし
話の途中だったから
すぐにみくりに電話を掛け直したが
何度コールをしても電話には出ない
「…みくり…、何事も無いと良いんだが」
♪ ♪ ♬~ ♪ ♪
みくりからかと思って
そのまま名前を確認せずに応答すると
『煉獄か?』
「…ッ、その声は…冨岡か?」
冨岡は年齢は一つ上だが
別の企業で1年働いていて
ヘッドハンティングでうちに入社してきて
同じ年に一緒に新人研修をうけたが
確か今は
みくりと同じ部署に居たはずだ
冨岡とは認識があるし
LINEも知ってる仲であるが
「どうしたんだ?冨岡…」
『河田さんの件なら、俺に任せて置け。
その為に俺は居るんだからな』
「冨岡、君は言葉が色々と足りなさすぎるぞ?
俺に分かる様に説明してくれないか?」
『俺は…、あまり、説明は得意ではない。
が、河田には以前から目を付けていたからな。
お前が留守にする、この研修期間に
みくりに近づく、可能性があったからな』
そう 普段の冨岡らしからぬ
長文で話を冨岡がして来て
長い言葉も喋られるのかと
杏寿郎は驚いてしまって居たが
「冨岡、君は…何者なんだ?
どうして俺に、そんな話をしてくる?」