第3章 くじら
ー研磨sideー
「…で、さっきの赤葦とのあれはスルーでいいわけ?」
合宿の締めの挨拶みたいな、
毎回あるよくわかんないやつ。
赤葦が遅れてくるって、木兎さんに巻き込まれでもしない限りないことで。
でも、今日かなり遅れて登場した。
しかも、穂波と手を繋いで走ってきた。
かなり、ざわついた。周りが。
リエーフみたいなやつじゃなくて、赤葦ってとこが、
きっとまたざわつかせたんだと思う。
けどおれは別に、昨日の流れもあるし。
ふーん、って感じで。
もしかしたら今まで以上の感覚でいく、って言ってた。
ふーん、って。
だから穂波にわざわざ聞くようなことはないなと思ったし、
別に気にならなかった。
「うん、別に、たいしたことじゃない」
「マジで!?赤葦が?手を繋いで登場したのに!?」
「…クロがいた頃から数ヶ月経ってるからね」
「いやそれはそうだけども!でも、あの赤葦がだぜ? 何があった?」
「それは、おれが話すことじゃないし」
「そうなの?」
「そうでしょ。おれと赤葦の話でも、おれと穂波の話でもない。
そういうのべらべら話すの、意味わかんない」
「………」
そういうとこ、穂波も一緒で、
それもまたすきなとこ、気がラクなとこのひとつだ。
そりゃいい噂?っていうか、いい話は話してくる。
楽しい話とか、こんなこと話したよ。とか。
でもじゃあ、赤葦が話した、赤葦と他の誰かの話。とか。
内面的な話とか。 穂波が当事者じゃない話とか。
時と場合によるけど、そういうのはベラベラ喋らない。
だからそれはおれの話も、周りの人にベラベラ喋らないんだろうな、とも思う。
そういうのもまた、安心するし、すきだ。
「なーんかお前ら、どんどん箔が増してくのな」
「箔とかない。老夫婦でもないから」
「は?」
そりゃ、老夫婦にはいつかなりたいし、
そのくらいの勢いで一緒にいるのはラクだけど。
老夫婦じゃないし、熟年カップルでもない。
影山も翔陽ももうちょっとたとえ話上手くなればいいのに。
とくに影山の残念な感じは半端ないな、って思う。
まぁいいや。
あした穂波が久々に家にくる。