第3章 くじら
ー研磨sideー
「穂波、どうした?って聞きたいとこなんだけど。
なんかおれが聞いていった方がいい気がするから。聞いてくね」
『…ん』
あからさまに動揺してる。
けど、月島と初めてキスしたって時もこうだったかな、とかも思う。
いやでも、あれよりだいぶ彷徨ってる感じあるな。
「穂波からしたの?」
『…え、あ、うん』
「………」
だからか。
…でも赤葦の言葉、穂波がこういう風に言うと思うけど的なニュアンスを含んでた。
もうちょっと赤葦からもちゃんと聞いておけばよかった。
「…なんで、そうなった?」
『………』
「いいよ、言い訳がましいとか無責任とか、そういう考えは一旦放ったらかして」
『………』
「とりあえず、ただ端的にあった出来事を伝えてくれればいいから」
『…ん』
・
・
・
阿部さんが穂波の裸を見たら夜眠れなくなる、って言ったこと。
…結構突拍子もないこと言うんだな、とか思った。
でもまぁ確かに、穂波の裸は綺麗だよ、とも。
それによって残された2人に変な空気が流れたこと。
…赤葦と穂波はどこか似たとこがあるから、チョット想像つく。
これが月島だったら、きっと別になんともない。
穂波が多少どぎまぎしても、月島がいつも通りにそれを揶揄ったりしながら、
そう、いつも通りの空気になっていくと思う。
でも、今回は赤葦だったから。
穂波は、途端に赤葦が色っぽく見えて気付いたら、
身体を寄せたままこっち見てって言ってたって。
それから頬に手を添えて、誘ってしまった、と。
途端に色っぽく見えたのは、赤葦がそういうことを想像したっていうか、
そういう空気になったからだろう。
今までも身体近いよ、顔近いよってことはあったけど、
決定的にそこら辺が違ったんだろうって思う。
それから赤葦も赤葦で、
とろんってしてる穂波にそういう距離で触れるのは初めてで。
そんなのもうね、当たり前だよ。
おれにでもわかる。
キスするに決まってる。