第12章 Hi!
「…ん、すまない。 いや、それは舐めてはいけない」
『…あっ あぶない、ごめんなさい。 つい美味しそうで』
若利くんは見当違いなところをその太い指で拭うから全然取れてなくて。
ええい、っとその美味しそうなソースを人差し指で拭ってしまった。
そしてごく普通に自分の口に持っていきそうになるその、わたしの気持ちの悪い行為を、
若利くんにごく冷静にぴしゃりと、止められてハッとした。
「穂波は何を買った?」
『これはね、ラップサンドだよ。
クリスピーチキンとケールのシーザーサラダが巻かれてる。半分食べる?』
「…いや、いい。 食べるべきだ」
『ん、無理にとは言わないけど、もし足りなかったらぜひ食べてみて?
わたし、これ半分持って帰ろうと思ってたから』
「…そうか、じゃあ後でいただく」
『ん、もし良ければ♡』
その日はカズくんはスポンサーと
あとガーディアンになってくれてるお兄ちゃんの友達夫婦と夕飯食べてくる日だったからわりと時間があった。
だから、若利くんとまだゆっくりできるなーって思って、嬉しかった。
あの牛島さんを。
今、若利くんって呼んでることが不思議でありながらも、
土地の力か何かわからないけど、スーッと馴染んで染み込んでくるみたいだった。
『今日はどうしてアーバインに?』
「父親がこの町に住んでいる」
『へぇ、じゃあ今日はお父さんの家に泊まるの?』
「いや、今日は宿を取った」
『そうなんだ』
「1日くらい、自分でやる日もあるべきだと思った」
『あぁ、この旅を』
「あぁ。 だが、空港でも道中も、旅行客慣れした親切な人達に助けられた。
そしてこの店でも、穂波に助けられた」
『…あ、ごめん、わたしやっぱ要らないこと、しちゃったね』
「いやそんなことない。 これが、旅行なのだな、と思った。
親切を受けると、それをどう循環させれるかと考える。俺にできることは何かと」
『うん、うん。 若利くんって……』
支えたくなるひとだな、なんだろ一歩下がって支えたいって思わせる何かがある。
そんなの、若利くんが求めてるかはわからないけど。