第11章 ラングラー
「研磨くんの夢は?」
屈託なく、古森くんが聞いてくる。
おれに、そういうこと聞いてくる人って少ない。
聞いてくるにしても、夢って言葉では聞いてこない。
「…夢は、んーと」
「ゲーム部屋とかゲーマーとか株は、前からイメージしてたこと?」
「…ん、でもそれは別に夢とかじゃなくて」
「うんうん、なんかわかる」
ん、わかってくれてるのが分かる。
具体例になった途端、イメージしてたって言葉になった。
「んー、夢ってなんだろ。ちょっとよくわかんない」
「確かに、わかんないなって俺も思った。
オリンピックは出たいけど別にそれで終了ってわけでもないし。
そもそもVリーグ入れてる時点で、一つ叶ってるけどでもなんか」
「そこから始まる感じある」
「だよね、オリンピックだって出たら、またそこから次の矢印が現れそうだし、
それが現れる限りは楽しそうだよなー!」
「…ん、そだね」
「何ふたりで深い話してんの」
「深くないし。 …夢とかよくわかんないけど、治くんの夢には期待してる」
「何なん今日、まじで、俺を落とす気なん?」
「だって、良いなって思ったから」
だからこの話はもうおしまい。
角名くんと穂波は2人で余ってるおにぎり焼き始めてて。
仲良く話しながら香ばしい匂いを生産してる。
「やば!ごま塩焼きおにぎり!」
『美味しいよねぇ、きっと。焼肉のタレ塗るのも良いかなぁとか思ったけど』
「焼肉と食うんもええよなぁ」
『ね♡』
おれの終わることのない夢は多分、
穂波の隣にずっといること。
物理的にもいたいときはいたいけど、そういう意味じゃなくて。
…それだけじゃないけど、穂波がもし、いなくても何かしらあるけど。
ゲームだって株だって、他のイメージしてることだって、ひとりでできるし、ひとりでもするけど。
でも穂波がいないと、
匂いも色も失っちゃいそうだな、とか思う。
そんなこと思いながら穂波を見てると、ふって目が合う。
小さく微笑んで、角名くんとの話に戻ってく。
ずっと、俺のでいてね。
って、思う。