第9章 aims
背中にくっついてた研磨くんの身体がすーと離れるとなんだかひやっとした。
お互いの汗で身体はじっとりしてて。そこに冷気が当たって。
「…穂波しか見えてなかった」
『…?』
「…窓の外、こんななってる」
『…あ、ほんとだ… というか、外どころじゃなくって…』
この部屋、すごいことになってる。
大きな窓の外には一面の夜景。
今寝転がってるベッドも大きい。
室内はモダンすぎない和モダンって感じかな… 海外の人の利用も意識した感じ。
歩いてる時に思った、床はカーペットじゃなくてフローリング。
なんか、すんごいし、ラグジュアリーで特別感がありながらも、どこかあったかい。
身体が強張らないような、そんな、部屋。
──「〇〇スイート…… じゃあそこで ………あぁ、はい大丈夫です……」
車の中で〇〇スイート、って音だけは聞いてた。
ホテルの名前がついた部屋なんだなーってぼんやり思った。
──「ご朝食はいかがなさいますか?」
「あ、間に合うの? …それなら、うん、お願いします」
「お部屋にお持ちしますか?」
「あ、うん、じゃあそれで」
「では明日お電話にて……」
エレベーターではそんな話をぼんやり聞いたことを思い出す。
わたしも研磨くんが欲しい、ただそれでいっぱいだったから。
多分エントランスもロビーもすごい仕様だったと思うんだけど…
何一つ、入ってきてない。
お互いの体を重ねるためだけの目的で、
こんな部屋に夜中に滞在を決めるってなんだか…
『…oh baby lovely lovely way, 息を切らす〜』
唇からゆったりとしたテンポで歌が溢れる。
「…ふ バブリーだね、おれたち」
『ん、バブリーだ』
「夜景を楽しむとか部屋で寛ぐとか何一つせずに、穂波が欲しいからここに来た」
『…ん でも』
「…?」
選択肢はきっといっぱいあったのに。
ラブホテルとか、ビジネスホテルとか…そういうポケットマネーで済むような……