第8章 そういえば
ー赤葦sideー
6月26日(木)
〇〇駅に来た。
一度来たきりだけど、道は覚えている。
何の道かって、穂波ちゃんの実家への道だ。
大学の講義を受け、一度一人暮らしをしているアパートへ戻り、
電車に乗ってここまで来た。
穂波ちゃんに会うのは、2月の受験後以来。
第一希望の大学、学部の受験を終えたその日は木曜日で。
穂波ちゃんの誕生日は数日前のことだった。
春高の時にもちらと顔を合わせたが、
夏の合宿以降めっきり会う機会が減っていたのもあって、
受験を終え、結果はまだにせよ、とりあえず一区切り、という段階で。
気がついたらコール音を鳴らしていた。
──『はい、もしもし』
「あ、もしもし穂波ちゃん。 突然ごめんね、今大丈夫?」
『あ、うん。大丈夫だよ。 …あ、昨日受験だった?
友達も早稲田の文学部希望でね、京治くんと一緒だなぁって思ってたの』
「あ、うん。そうなんだ、それで…」
近いうちに会いたいんだけど、と伝えると、
うん、日曜日はどう?と聞かれ。
2つ返事で承諾をした。
2月23日(日)、東京駅で待ち合わせた。
あの書店へ行こうと夏の合宿で約束をしていたから。
…というのも変だな。
約束をしていたからではない、会いたかったから会いたいと伝えたし、
もう一度あの書店に一緒に行きたかったから、行くことにした。
あの日はダンスの発表会帰りで大きな荷物を持っていた穂波ちゃんは、
その日は身軽そうな小さなバッグをコートの下にかけていた。
『あ、京治くん。待たせちゃった?』
「ううん、全然、俺も今来たところ」
『…んふ、何か色味被っちゃったね 笑 なーんかこういうことあるよね、わたしたち。
研磨くんもね、そういう感じのこというんだよ。 なんか似てる、って』
「…?」
色味?
あぁ、服装のことか。