第15章 それぞれの いとま
宇髄は4年前に透真が行方不明になる前に
ここで交わした
透真とのやり取りを思い返していた
この 狂い咲きの桜の下で
いつも
ニコニコしてて穏やかな笑顔をしていた
アイツが あの日ばかりは
悲しそうな顔をしていて
あんな 悲しそうな笑顔のアイツは
俺は見た事なくて
『ねぇ、天元。こんな事をさ、
お願い出来る相手がさ、僕には、君しか
……居なくて。君には奥さんもいるし、
こんな事を頼むのはいけないと
思ってるんだけど、僕に何かあった時は……』
『透真っ、お前、何縁起でもねぇ事…
言ってんだよ。そんなお願いなんか、
俺にしてくれんなよ』
『天元。あげはちゃんの事……、天元に
頼んでもいいかな?僕が居なくなって、
あげはちゃんに次の相手が見つかるまでさ、
その間だけでもいいんだ、あげはちゃんの事、
気に掛けてくれないかな?』
どういう事……なんだ?
どうして彼が
そんな事を宇髄に頼む 必要があるんだ?
自分の知ってる 三上透真と
宇髄の語る 三上透真
全くの別人じゃないか
自分の心臓の辺りが
モヤモヤとして気持ちが悪い
自分の心臓の音が
自分の耳から聞こえて来て
耳に付いて離れない
「もし自分が居なくなって、戻らなくなったら……
次の相手が見つかるまで、面倒見てくれって、
普通そんなの、頼まねぇだろ?なぁ、煉獄…
アイツを、あげはを責めないでやってくれねぇか?」
彼女が今まで
彼を討つのに
積極的になれなかった
本当の理由は これだったのか?
「俺が……、知らないだけか?」
「お前は知らねぇんだな。穏やかに笑う方の透真を」
「二重人格……だったのか?彼は」
「違和感……
みたいな感じだったんだ、最初は……」
宇髄はその時の事を
思い返しているのか
どこでもない遠くをぼんやりと眺めていた
「宇髄、君は戦えるのか?彼と……」
自分の親友だった 彼と
宇髄は杏寿郎の質問に対して
一度 視線を 地面に向けて
しばらく口を閉ざして居たが…
「俺はいい。戦うって決めたのは、誰だ?
一番辛い思いをするのは、誰だって、事…位。
そんな事、俺が聞かなくても、分かるだろ?
お前にも……」