第2章 私は彼を知らない
ーーーー そんな事から一週間以上して
杏寿郎が大通りを歩いていると
どうにも騒がしい ガヤガヤと
野次馬が集まって大勢で
何かを取り囲んでいる
その輪の中から男女の
言い争う声が聞こえた
痴話喧嘩か
あまり踏み込むのも良くないが
これ以上騒ぎが大きくなるのは
見過ごせないな
仲裁に入ろうとして人の波を
かき分けて輪に入ると
耳に覚えのある 通る男の声がした
『お前、嫌だ、嫌だって、
もう何度目なんだぁ?
いい加減にしたら、どうなんだよ?』
この声は 同じ柱である
宇髄天元の物だ
この声の主が宇髄だとすると
相手の女は彼の妻か?
いや 宇髄ほどの色男なら
他の女の…可能性も有り得るのか?
『だから、何回も
お断りしてるじゃないですか!
いい加減にするのは、そっちですから!!
ならないものは、なりません!』
この女の声 まさか…彼女か?
「この天元様が、わざわざ何度も
嫁にしてやるって言ってやってるんだ。
なりゃーいいだろー、なりゃ!
な?あげは」
「なりませんし、そんな事、
頼んでませんから!」
宇髄は何故
美人の妻が3人もいて…
3人も妻がいるのに何が
不服なのか分からないが
3人も居れば 十分のはずだ
うん そうに決まっている!
「宇髄!さっきから聞いていれば
何事だ!彼女は君の妻には
ならないと言っているんだ、
男らしく身を引け!
わざわざ彼女を妻にせずとも、
君にはもう3人も妻が居るだろう?」
どよっ 3人も妻がいると言う
杏寿郎の発言に
周囲にいた野次馬から
どよめきが起こる
一瞬の内に2人の間に
杏寿郎が割って入ると
あげはの腕を掴んで
その手を引いて行ってしまった
1人残された宇髄は
「なんなんだぁ。ありゃ?」
と漏らした
何も言われないままで
腕を掴まれたまま
どんどんと強い力で腕を引かれていく
さっきいた場所から離れて
小さな通りに差し掛かっていた
「あ、あの!煉獄君、
そろそろ…手を」
声を振り絞って
あげはが乞うように言った
「ああ、すまない」
あげはの言葉に我に返ったのか
杏寿郎があげはの腕を
掴んでいた手を離した
「存外、…君はモテるのだな」