第62章 結納編 朝
『透真、お前ってさ、欲あんの?』
一仕事終えて 飯でも行こうってなって
大通りをふたりで歩いていた
鬼を狩って
その屋敷の娘さんを助けたお礼だと
屋敷の主人がその礼として用意した
金や宝石や上等な反物の受け取りを
俺は貰えばいいじゃんって言ったのに
アイツが断わってたからだ
『欲?あるよ?』
一番欲とは無縁そうな男からは
意外な返事が返って来て
宇髄は目を丸くさせてしまった
『あんのかよ?意外過ぎんだろ?』
『僕だって、寝ないと死んじゃうし。
食べないと、死んじゃうけど?』
はぁーーっと透真の言葉に
宇髄が額を押さえてため息をつくと
『バッカっ、お前っ、
それは欲とは言わねぇの。
んああっ、あるだろ?
何か、ほらさッ、欲しい物とかッ』
欲しい物が何か無いのかと
自分の隣の親友に尋ねると
『物?うーーーん、物ねぇ。
物が欲しいって
あんまり思わないからなぁ~。
欲しい物、欲しい物ねぇ~』
そう言ってうーーーんと唸って
そのまま考え込んでしまって
その様子を宇髄は見守る
思いついたのか ポンと透真が手を付くと
にこっと
あのいつもの笑顔をこちらに向けて来て
そのまま ニコニコと
満面の笑みを浮かべて来る
『何?その顔』
『へへへ~、知りたい?知りたい?天元』
『勿体ぶんな、透真。教えろよ』
『僕の欲しい物はね…、それは…ね。
あげはちゃんの笑顔かな?』
『はぁ?何それ。
お前っ、マジ欲無さ過ぎんじゃん。
んなもん、金じゃ買えねぇし。
お前にしか価値ねぇだろ、それ。
お前、ホント。あげはの事、好きな』
『うん、好きだよ。
しょうがないでしょ?好きなんだから。
あげはちゃんが、ずっと笑って
笑顔で居てくれて、幸せになれるんだったら、
それ以上に欲しい物なんて僕には無いからさ。
だから、僕は…、
あげはちゃんの幸せが欲しいかな?』