第62章 結納編 朝
杏寿郎が視線をある方向へ向けているのに
あげはが気が付いて
そちら側に意識を向けると
離れに近付いて来る 人の気配を感じ取れて
これも昨日の房中術の修行の成果だろうか?
杏寿郎が感じ取っていた物を
自分の感じ取る様に
その行動をなぞるのを自然にしていて
考えずともにその考えが分かって居た様な?
考え過ぎ…だろうか?
そう思いながらも 無意識に
自分の指先で左の鎖骨の下の蝶を押さえていて
ふと 視線を杏寿郎に向けると
杏寿郎もまた同じ事を感じて考えていたのか
自分の右の鎖骨の下を蝶を
あげはの仕草を鏡に映したようにして
押さえているのが見えて
はたっと視線がぶつかると
そのままおかしくなって
笑い出してしまって居て
朝食の前に入浴を済ませて下さいと
望月さんがこちらに伝えに来てくれて
朝から お風呂を使わせて貰って
化粧もあちらでと聞いていたので
軽くにだけ化粧をして支度をすると
朝食の支度が出来ていると声を
今度は清水さんが 掛けに離れに来たので
居間へ杏寿郎と向かうと
居間には既に屋敷の主である槇寿郎と
千寿郎の姿がそこにあって
自分達が最後の様だった
居間の襖を開くと
槇寿郎が視線をこちらに向けて来て
「おはよう、杏寿郎。あげは。
随分、ゆっくりしていたんだな。杏寿郎。
今日は、大事な日じゃないのか?」
「すいません、
遅くなりすぎてしまっておりました。
父上。おはようございます。
昨夜は今日の事で浮かれてしまって居たのか、
中々寝付きが悪かった様で、
暁を覚える事が叶いませんでした」
そうある程度の事情の含んで居そうな
槇寿郎の言葉に更に杏寿郎が
含みのある言葉を重ねて返すから
「すッ、すいません、槇寿郎様。
望月さんや、他の皆さんに、
余りにも丁寧に
おもてなしをして頂きまして。
つい、うっかりと自分の家の様に、
寛ぎすぎてしまっておりまして。
槇寿郎様や、千寿郎君を
お待たせしてしまい、申し訳ありません…。
朝のご挨拶も遅れてしまいまして」