第7章 長い一日
唇で唇を挟むように はむはむと
はまれると吸い上げられる
…た 確かに深い方は…
ダメとは言ったけど…
これは… これで…
まずいのでは? 色々と…
トントンと杏寿郎の肩を叩いて
口付けを止めるよう合図する
「ん?君に、言われた通りにしか
…していないが?」
深い口付けをしていないのに
止められたことに納得がいかないと
不満そうな様子で言った
「その、…あの、あまり…吸われると…、
その、腫れて…しまいますから」
声を顰めて恥ずかしそうにそう言われて
少し恨めしそうにも熱っぽくもある
何とも言えない視線を向けられてしまった
「腫れる?」
「唇が…、ですね。腫れて…
しまいますからっ…」
現にそう言ってる今も 唇が少しばかり
ピリピリとしてて熱を帯びているのが
自分でも分かる 少し冷えた指先で
冷やすように唇を押さえた
そう言って見せるその仕草も
表情も色めいて見えるのがまた憎らしい
断っている言葉に
誘っている仕草だからか…
まぁ当の本人は断ってる
つもりなのだから
俺を煽っていると言う
自覚はないのだろうが…
「腫れると…まずいのか?」
唇が腫れることに何がどう問題なのかと
あげはに問いかけているようだ
「俺としては、もっと…
腫らしてしまいたい所だが?」
それはもっと さっきみたいな
口付けをしたいと言う…意味で
「蝶屋敷の女の子達は、仕事柄…
小さな“変化”…にもすぐ…
気が付いてしまうので…その…」
だとするのであれば
あげはの唇が腫れていると言うよりも
彼女自身の様子が…いつもと違うとは
気が付きやしないのだろうか?
と思わないでもないが
口付けに夢中になっている内に
見知った景色が見えて来る
ここからなら蝶屋敷までは
もうそんなに時間もかからないだろう
「君も、あそこでの立場もあるだろうし、
他の者の前ではいつもの呼び方に
しておこう。その方がいいんじゃないか?」
「まぁ、その方が…世間体はいいかも
しれませんけど…でも、やましい訳でも
…ないのはないですし…」
「君が、明け透けにしても
構わないのであれば、俺は構わないが?
…君は、恥ずかしいんじゃないのか?」