第48章 嵐、束の間の静けさのち嵐 後編
部屋に戻ると
あげはは稽古着に着替えて
それから しばらくの間
中庭でひとり稽古に勤しんだ
スゥウウウウッ
「水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫・乱」
水流飛沫 乱の水の足場で
一気に地面から遥か上空まで飛び上がって
ある高さの所で
霹靂波紋突きに切り替えようと
シィイイイイッ…
雷の呼吸を追加して
上空で身を返そうとした時
ハタっと 一羽の鴉と目が合ってしまった
え?…鴉? どうして…鴉がここに?
片目の潰れた鴉…
片目…だけの 鴉なんて まるで…
あげはが自分の記憶の中の
片目だけの鎹鴉を思い浮かべる
その片目だけの鴉の
青い宝石のあしらわれた首飾り
あげはにはその鎹鴉に見覚えがあった
師範だ!!
師範の鎹鴉ッ!
「鳴門ッ、どうして?鳴門がここに…」
師範にこちらから手紙を出したのは
もうかなり前になる
杏寿郎からの求婚を受けたすぐ後の事で
その報せを文にして環に託したが
返事を持たない環だけが戻って来て居て
師範からの 返事はないままで…
そのままになっていたのに
どうして…今頃になって
鳴門がここに?
『どうして、
ここに鳴門が居るかだって?
阿呆か?お前は。
そんな事も分からないのか。
単純な事だろう?それは、勿論、
お前と言う馬鹿弟子の
顔を拝みにに決まっているだろう?』
声が聞こえた 女性の声
落ち着いたその凛と響く
低めながらに色気を含んだその声は
聞き覚えのある声だった
師範の声だっ
「師範?師範がどうしてここに?」
『それにはさっき答えただろう?
馬鹿弟子。お前が、
炎柱と結婚する事になったと
私に文を寄こした事も、忘れたのか?
阿呆め。それとも、何か?お前の頭は
今しがた聞いた事も。
憶えて居られないのか?あげは』