〖進撃の巨人〗Raison d'etre ─贖罪の贄─
第9章 調査兵としての日々
ローエン達と一緒に食事を取っていたジルは誰かからの視線を感じたのでそちらに目を向けると、今一番会いたくない人物─エルヴィンがこちらへと近づいてくるのが見えた。
エルヴィンはジルに近寄ると声をかけてきた。
「ジル」
名前を呼ばれただけなのにジルは体が硬直するのを感じたが、それでも何とか返事を返した。
「お、おはようエルヴィン。
どうしたの?」
ミケはまだしも、ローエンがいる手前、ジルは平然を装わなければならなかった。
「あぁ、おはよう。
今日の訓練のことなんだが…」
まっすぐとこちらを見てくる強いエルヴィンの視線と、どうしても合わせる事が出来ないジルは、不自然だと思われるにも関わらず、スプーンを持った己の手を見つめていた。
エルヴィンは今日の訓練の諸々の連絡事項をジルに話すと足早にその場から去っていった。
ジルは離れていくエルヴィンの背を見つめながら先程のやり取りを思い出す。
昨夜あんな事があったエルヴィンとは気まずいジルに対して、エルヴィンは昨夜何も無かったかのように平然としていた。
ジルがモヤモヤと考え事をしていると、横からジルの名前を呼ぶ同期にジルは返事をする。
「ジル、あれがジルの知り合いか?」
「えぇ、そうよ。
私達より4期上の先輩のエルヴィン・スミス。
エルヴィンが今日一緒に訓練に混ぜてくれる班の班長さんよ」
「俺らより4期しか変わらないのに班長なんてな。
余程優秀なのか余程人手が無いのかってところかな」
そしてローエンは続けてこう言った。
「それにしても、エルヴィンさんって眉太いな…」
このローエンの言葉にジルとミケは思わず吹き出してしまう。
「ちょ、なんなのよその感想…」
「背も高くて顔も良いんだけど、あの太い眉にどうしても目が行ってしまう…」
「もう、ホント何なのよソレ…
でも、確かにエルヴィンって小さい時、眉毛って呼ばれてた事が何回かあった気がする」
さっきまで悶々としていた事が馬鹿らしくなる話題ではあったが、この話題のおかげでジルは鬱屈とした気分が少し緩和されたのだった。