第1章 「殺されてもらえますか」
この、反応。
わざわざ女の子を寄越すくらいだから"そっち"系のコかと、思ったのに。
ハニートラップ的、な?
キスしただけでこの反応。
なんだ。
ただの女の子じゃん。
呼吸の仕方もわからない。
顔を真っ赤にして耐えてる顔が、やけにかわいい。
もしかして息止めてんのかな。
唇やけに噛み締めちゃってるし。
少しだけ隙間を作り、隙を作ってあげれば。
案の定酸素を取り込もうと無防備に開く唇。
逆にその隙をついて。
舌先を口の中へと滑り込ませた。
「ふッッ、ぅんんん、んーッッ!!」
びく、と強張る体。
顎に掛けた指先に、力を入れた。
見たところ。
16………、よくて18?
成人は、してなさそうだな。
近付こうとした時の身のこなし。
柔軟性。
暴れて欲しくなくて、首へと打ち込んだけっこう強めな鎮静剤。
ものの1時間もしないうちに目が覚めた。
薬にも耐性があるってことは、たぶん毒も。
なんにしろ。
家まで運んでたら間違いなく運転中襲われていたかもしれない。
なんとなく嫌な予感がして。
大学の自分の研究所へと運んだのは正解だった。
こんなときの野生の勘は、信じるもんだ。
とはいえ。
明日になれば学生たちが来てしまう。
今夜中になんとかしないとな。
「………っふはッッ、はっ、は……っ」
考え事をしながらも貪った口の中。
ねとっと糸を引きながら唇を離せば。
瞳から涙を流し、短く呼吸を整える彼女の姿が真下にある。
あーあ。
なんて顔、するんだろう。
「………ッッに、すんだよ!!殺すなら殺せってば!」
「だから、そんなもったいないことしませんよ。キスです。キス、初めてですか?」
「き、す?あんな気持ち悪ぃもん、知らない」
「………」
トロンて、瞳うるうるさせといて気持ち悪いとか。
ちょっとお兄さん、泣いちゃうなぁ。
「名前は?」
「は?」
「名前、聞いてませんでした」
「殺す相手の名前聞いて、どーすんの」
「だから殺しませんて」