第1章 「殺されてもらえますか」
「………は、偽、装?」
あれ。
そーいえば。
ちゃんと見えてるし痛くない。
少しだけゆとりがあるゴム素材のせいか、顔までは手が届く。
自分の指先で目を触ると。
うん。
ちゃんと、ある。
「?」
「まぁこれもせいぜい、持って1ヶ月と言ったところですか」
くるくるとやけにリアルな目の玉を弄びながら。
彼はコトリと"それ"をあたしの枕元へと、置いた。
「━━━━━ッッ」
リアルなそれに内心乱れまくる鼓動を気付かれたくなくて。
至極冷静を、保つ。
だけど。
そんなあたしの心情を見透かしたように、男はくすりと、笑った。
カァッッ
自由な足を思い切り男の顔面目掛けて蹴りあげるけど。
パシッとそれは簡単に男の掌で受け止められた。
「━━━━っ、きゃあ!?」
そのまま足首を持たれてガバッと足が開かれ。
哀れもない姿が、晒される。
「ふ、服ッッ、なんで………」
いつもの黒のパーカーと黒のショートパンツは脱ぎとられ。
白いTシャツ、1枚。
に。
下着だけが身に付けられている。
「ショートパンツにもブーツにも、靴下にもナイフが仕込んであったので。あと銃も。危ないものは処分させて頂きました」
「…………っ」
どっちみち武器だけあったところでこのベルトは切れないし、使い道なんてない。
あたしが『死んだ』と思ってるなら追加の暗殺者は来ない。
助けなど、もともと来るはずもない。
絶体絶命。
「━━━━っ、ひぁ?」
開かれた足の、太腿に。
生温いぬるぬるとした肌触り。
「な、何……ッッ、して!!」
「せいぜい長くて1ヶ月。時間もないので、早速始めさせていただきます」
「何、始める……?」
「言ったでしょう?あなたが欲しいと。身も心も、手に入れて見せますよ」
「は……っ、何……、んんぅッッ!?」
右足は、男の左手に捕まったまま。
体重を掛けて体を倒せば。
男の体重分、重力が体に掛かる。
身動き出来ない体に焦りを感じた、瞬間。
顎が掬われて。
唇と唇がくっついた。