第5章 番外編
「あ、ま、ね?」
他の男と繋がったままの時雨が、こっちを振り向いて。
トロトロに蕩けた色香を纏った時雨の表情に、息をのんだ。
潤みまくった瞳は真っ赤になり。
ぷっくりとした潤いのある唇。
上気した頬。
どれをとっても。
全部俺の知らない時雨だ。
だけど。
正気を失った瞳が、揺れて。
俺を捉える。
人差し指を立てて、にこりと、微笑んだ。
色を失っていた瞳に、光が戻る。
「しぐ、れお前……」
時雨は、時雨だ。
俺の知らない時雨がいるならそれはきっとこの男のせいだ。
狂ったこいつに、囚われたせい。
教授よりも先に、俺が時雨をものにしていたら。
時雨は俺にもこんな顔、見せてくれただろうか。
嫌われるのが怖くて、触れるのさえ出来なかったくせに。
無知で無垢な時雨を汚したくないなんて、都合良く言い訳して。
逃げてただけのくせに。
『あま、ね、やだ……っ』
とっくに答えは、出てたのに。
堕ちた、のは。
身体だけ。
心までおとしたのは、俺じゃない。
「まともだよ、こいつは」
馬鹿馬鹿しい。
まじ、やってらんねぇ。
「あんたの負け」
なんでこんなこともわかんねんだよ。
わけわかんない不安や嫉妬で。
振り回すな。
傷付けんな。
いつだって時雨の瞳には、ひとりしかうつってないってのに。
ふたりを残して。
部屋を出た。
「時雨は、教授が好きだよ」
出る間際に聞こえた時雨の声。
言葉。
おかげでようやく、吹っ切れた。