第3章 殺し屋業、復帰!!
にこりと微笑む時雨が、両手を首へと回し引き寄せる。
「教授にもあるんだね。自分じゃどうにも出来ない衝動」
「………時雨おまえ……」
時雨は、知ってたんだ。
自分の中のどうにも出来ない衝動。
コントロール出来ない、ある部分。
幼い頃から日常的に生活の一部だった、『破壊』。
物を壊す。
虫を殺す。
人を、壊す。殺す。
「………あの人、時雨を殺そうとしたよ」
そっと引き寄せられて。
時雨の吐息が、耳へとかかる。
「教授知ってたね。時雨を、利用したでしょ」
「………」
「時雨が、あたしがあの人殺すか、試したでしょ」
「………ああ、試した」
「合格?」
ふふ、と、微笑えむ時雨。
幼い子供のように、あどけなく。
「喉切り裂いて、楽しかった?」
「楽しかった」
「血を浴びて、興奮した?」
「うん」
「なんでさっき、わかんないって言ったんだ?」
「だってほんとにわからなかったんだもん。教授が、教えてくれたんでしょ?」
「………」
「ねぇ教授。合格?」
コントロール出来ないなら、すればいい。
「もちろん」
後頭部へと右手を差し入れて。
時雨を引き寄せる。
「合格だよ」
そのまま引き合うように、キスをした。
時雨をこの世界から引き離すことも。
もっと違う道を与えることも。
たぶん出来たんだと思う。
昼間時雨の目を見たから。
楽しそうに人を傷付ける時雨を見たから。
そんなのただの主観。
そんなのただの言い訳。
ただ。
この世界へ引き込む条件が欲しかったんだ。
わざわざあの場所へ時雨を連れていく必要なんてなかった。
パーティーでの仕事も、ひとりで十分カタが付く仕事だ。
時雨を連れていったのは。
任せたのは。
全て時雨が『こう』なることを俺が望んだから。
時雨の抑えきれない衝動を外に出すことで、"俺が"手綱を引くため。
もしかしたら。
時雨の衝動は、時雨の中に閉じ込めておくことだって出来たかもしれない。
普通の女の子として、生きることも。