第5章 秘密◎
『吉本、また足速くなった?』
『本当よね〜
毎日飽きもせず持久走だなんて…尊敬するわ』
『狗巻先輩と張り合える速さだな』
私は今日も、いつも通り放課後の持久走を行っている。
なんだかんだで1年生のみんなも一緒に付き合ってくれるから続いてるようなものだけど…。
少しずつ、強くなってきている事は自覚できている。
これもみんなのおかげ、ありがとう。
『俺飲み物買ってくるけど、お前らどーする?』
『じゃあ私も行くわ〜』
虎杖君と釘崎さんが飲み物を買いに行った。
走り終えた私は、夕日を背に恵君と並んで腰をかける。
恵君と2人きりになるのは久しぶりで、なんだか嬉しくてワクワクするような、ちょっぴり緊張するような気持ちになる。
『お前頑張ってるな』
少し笑いながら恵君が言ってくれた。
『ありがとう!!
恵君や虎杖君や釘崎さんがいてくれるから、頑張らなくちゃって思えるよ!もちろん自分のためにも』
『辛いことがあれば言えよ?
俺はどんな時だって、お前を守ってやるからな』
『・・・ありがとう』
恵君の真っ直ぐな眼差しに、ドキリとしてしまう。
一緒にいるだけでドキドキする、この特別な感情になるのは恵君だけ…
何を話すわけでもなく並んで座っていると、首にかけていたタオルがひらりと地面に落ちてしまった。
『あっ…』
拾おうとすると、同じくそれを拾おうとしてくれた恵君と手が重なってしまった。
『ごっごめん!』
私は恥ずかしさを隠すため、奪うようにタオルを拾おうとする。
・・・恵君は私と重なった手をそのまま握り締める。
『俺さ…』
恵君が何かを言いかけたところで
『お疲れサマンサーー!』といつものあの人の邪魔が入った。
私は気付かぬフリをして、恵君に握られた手を自然に離し、先生へと手を振る。
"なななんだったの今の?!?!
恵君は何を言いかけたの?!どうしよう、心臓痛いよ…"
『暇だから遊びに来ただけなんだ〜!』
先生が悪戯に笑いながら言う。
『仕事なんてたくさんあるでしょ。職務怠慢ですよ』
恵君がすかさず突っ込む。
何事もなかったように、いつもの光景が広がる。
虎杖君、釘崎さんも戻り、みんなが楽しそうに話す中、しばらくの間私の心臓だけは忙しなく大きな音を立てていた。