第1章 遭逢
学校の帰り、俺はいつも通り家に向かって歩いていた。
すると、目の前で女が呪霊に襲われていた。
"厄介だな。こいつは3級といったところか?
・・楽勝"
『玉犬!!!
喰べていいぞ』
【ギャアァアアアア!!!】
呪霊は消えて行く。
"・・・女は無事か?!"
『大丈夫か?』手を差し出す。
女はゆっくりと立ち上がり、頭を抱えて不思議そうに辺りを見渡している。
どうやら呪霊が見える、という自分の能力には気付いていない様子だ。よくここまで何事もなく生きて来れたな・・
それにしてもこの呪力、どこから出てるんだ?
"お前はどんな呪術を使うんだ?"
・・なんて今聞いたところで、今日初めて能力に気付いたような奴に聞いたって分かりゃしねえよな。
『あんた、見えるんだな』
『何が・・ですか?』
女は不思議そうな顔でこちらを見ている。
やはり能力には気付いてないか…。
これ以上俺がどうこうしようと変わらないな。
この女はあの人にお願いすべきか。。
『あんた、名前は?』
そういえば女の名前を聞いていなかったことに気付いた。
『吉本 泉智と申します。。』
吉本 泉智…
とりあえずこの件をあの人に説明し、◯月★日に会わせてみよう。
連絡先だけ渡し、俺はその場を後にした。
・・・ほっとけばいいものを、なぜだろう。気になって仕方がない。
自分の能力に気付かず、もしこの先吉本が呪霊に襲われたら…?そう考えると居ても立っても居られず、咄嗟に約束を取り付けていた。
"この気持ちはなんなんだ?"
"俺は何してるんだ?これは私情だよな…?"
"いや、でも今呪術師は人手不足だと小耳に挟んだことがある。
そうだ、俺は間違った事はしていない…!"
そんな事を考えていると、俺を呼ぶ声がする。
『伏黒くーーーーん!!!
助けていただきありがとうございましたぁあ!』
振り返り、もう一度彼女の顔が見たい。振り返りたい。
・・でもこれ以上私情を持ち込みたくない。我慢しろ俺…
俺は振り返りたい気持ちを押し殺し、前を向いたまま手を挙げて応えた。
いつにも増して寒い日、俺の心は暖かかった。