第5章 網にかかった蝶②【煉獄杏寿郎】
「あぁそうだ。今日は藤の家紋の家で休むんだったな?俺もそこで一晩休むつもりだ」
「私はっ…」
もしも同じところに泊まったら…何をされるかわからない程鈍感ではない。
「し、師範の元へ帰りますので…!泊まるならお一人でどうぞ!」
それだけ叫ぶとありったけの力を振り絞って煉獄から逃れた。
息を切らせながら距離を取ると刀に手をかける。
隊士同士の争いは御法度。
しかし、身の危険となればお館様に事情を話せば酌量の余地はあるだろう。ましてや…相手が柱で一度襲われていれば。
隊律違反を良しとしない彼がこれで諦めてくれれば……
そんなの様子を見つめた煉獄はふっ、と眉を下げた。
「まだ、駄目か……心が痛むな」
ドスッ
「かはっ…!」
何が起こったのかわからない。
煉獄の呼吸音が変わったと思ったらその場から消えて…………
鳩尾に鈍い衝撃を受けての体がくの字に折れる。
意識が混濁する。
「…こんな形でしか連れていけないとは不甲斐ない。………よく躾けないとな」
段々と視界が暗くなっていく。
意識が沈む直前、煉獄の呟きが聞こえた気がした。
「っ、ん………」
ぼんやりと意識が覚醒する。
はゆっくりと目を開いた。
蝋燭の明かりで照らされた部屋。
外は真っ暗のようだ。
温かい…。
「(そうだ…私は…任務に来て、鬼をたくさん倒して………!?)」
ズキッと鳩尾の辺りが痛む。
急に頭が覚醒した。
勢いよく顔をあげて立ち上がろうとする。
が。
「や、なにこれっ…!」
部屋にある柱。
その柱に縛り付けられていてのだ。
腰に刀は無い。
隊服は着ているが後ろ手に縛られているので身動きできない。
「あぁ、起きたのか。少し強く殴りすぎたから心配していたんだ」
「え……えん、柱…様…」
部屋の隅で刀の手入れをしていたのだろう、刀をゆっくりと鞘にしまった煉獄がこちらにやって来た。
「解いてください!どういうおつもりですか!」
足をばたつかせても床を蹴るばかり。
そんなを煉獄は楽しそうに見ていた。