第4章 3. ヴィランのルージュ
先日クロウリーからメイクブラシを含む式典用メイク道具一式を渡されたのだが、大小のサイズの違いはあるものの同じような形のブラシは使い方がいまいちよく分からない。
「それを話したらエースに大爆笑された挙句、終業式はパンダシェラが見れるのを楽しみにしてると言われたので参考になりませんでした」
あの時のエースの、人を小馬鹿にしたような顔は思い出すだけで腹が立つ。
デュースもデュースでコツは要らないから頑張れと応援してくれただけで、助け船を出してくれなかった。
「……駄犬だな」
クルーウェルはその様子を想像したのか、呆れながら指示棒を鳴らした。
「はい、駄犬です。少し腹が立ちました」
「分かった。明日の放課後だな。メイク道具とリムーバー、それとスキンケア類を一式持ってくるように」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
シェラの腹立たしい気持ちに共感したらしく、クルーウェルは了承してくれた。
明日の放課後、クルーウェルの特別レッスンが決まった。
◇ ◇ ◇
翌日の放課後、シェラは指示された教室へメイク道具を持って向かった。
教室の前まで来て扉を3回ノックすると、中から『入れ!』という声が聞こえた。
「来たか、仔犬!始めるぞ!」
「お忙しい中お時間を作ってくださってありがとうございます。よろしくお願いします」
ぺこりとシェラが頭を下げると、座るように促された。
言われた通りに席につくと、クルーウェルがシェラの対面に座った。
机の上に持参した道具を一式並べた。
封を切っただけで未使用のファンデーションと化粧下地。鉛筆型と細い筆ペン型の2種類のアイライナー。ほんの少しだけ表面を擦った痕跡のある黒いアイシャドウ。瞼を挟みそうで怖くて使ったことのないビューラーとこちらも未使用のマスカラ。基本的なメイク道具は全て揃っている。
「一通り揃っているな。メイクを始める前に顔を洗ってスキンケアを行え」
シェラが持参したメイク道具を確認しながらクルーウェルは大きめのガラスボウルに魔法で水を用意した。
シェラは言われた通りに顔を洗い、持参した化粧水と乳液で肌を整える。
少し時間を置いて基礎化粧品が馴染んできたところで、クルーウェルは次のステップを指示した。
目の前に大きな鏡が置かれる。