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泡沫は海に還す【twst】

第4章 3. ヴィランのルージュ




「あの、クルーウェル先生」
「どうした仔犬?」
ウィンターホリデー直前のある日。魔法薬学の授業後、シェラはクルーウェルを呼び止めた。

「クルーウェル先生に教えていただきたいことがあって、明日の放課後にお時間頂けますか?」
「質問か?今からでも構わないが」
クルーウェルはそう言って、整った顔に蠱惑的な華やかさのある笑みを浮かべた。

担任のクルーウェルは厳しくも優しい面倒見の良い教師で、授業の不明点を質問したらきちんと分かるまで教えてくれる。
突然この世界に召喚されて右も左も分からなかった頃のシェラにも、勉強以外に学園内での過ごし方も懇切丁寧に教えてくれた。
だからシェラはクルーウェルにはとても信頼を置いていた。

「今日は道具を持ってないので出来れば明日でお願いしたいです」
「道具?錬金術の質問か何かか?」
「いえ。あの……授業に全く関係ないんですけど、大丈夫ですか?」
「ほう。相談事か?」
授業外の質問にも取り合おうとしてくれる。
やはり最初からクルーウェルに相談しておけば良かったと思った。

シェラは気を取り直して本題を伝える。

「式典用のメイクを教えていただけませんか?」
秋学期の終業式が明後日に迫っている。
入学式ほど盛大でない終業式も一応式典にカウントされるそうで、生徒は式典服着用の上、式典用のメイクも施した状態での参加が義務となっている。

「式典用メイク?別に構わないが、いつも一緒にいる赤い仔犬と青い仔犬は教えてくれなかったのか?」
赤い仔犬と青い仔犬、エースとデュースのことだ。
ハーツラビュル寮所属のふたりはいつもスートメイクを施している。
日頃からメイクをしているだけあって、式典用メイクも上手そうなふたりにも教えを乞うたのだが、あまり参考にならなかった。

「エースとデュースに訊いてみたんですけど、あのふたり、『こう、目の周りをパパーっと塗って終わり』とか『目の周りを囲むことにコツが必要だとは思えない』としか言ってくれなくて、それを参考にやってみたんですけど、どうも目の周りがパンダみたいに真っ黒になっただけで……」
「ほう」
普段ノーメイクで過ごすシェラ。
なにかするにしてもスキンケアのみ。それか唇の乾燥が気になったらリップクリームを塗るくらいで、そもそもメイク道具なんてほとんど触ったことが無い。
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