第13章 9. 夜半の求愛 ※
次の瞬間、背を向けていたシェラをフロイドは仰向けに組み伏せた。
恥ずかしがることなく裸体で馬乗りになったフロイドは、雄々しく勃起したペニスも相まり、思わずぞくっとするほど野性的かつ男性的な雰囲気を纏っていた。
一気にふたりを包む空気が変わった。
見下ろすフロイドのゴールドとオリーブの瞳と、シェラの黒真珠の瞳が睨み合うようにして火花を散らす。
シェラの両手に指を絡めてシーツに縫いつける。
「ねぇ、小エビちゃん知ってる?人魚の愛って、人間が思ってるよりも大きくて重てぇの」
つ……とフロイドの指先がシェラの頬を滑る。
シェラの唇が揺れる。
大きくて重い身体と、ニタリと笑った口元から覗く鋭く尖った歯と赤くて長い舌。
改めてフロイドは人間ではなく人魚なのだと実感した。
フロイドの顔が吐息がかかる距離まで近づいてくる。
キスされるかどうかの距離まで接近すると、形の良い唇がシェラへの愛を口にした。
「小エビちゃん、大好き……。あんな姿見せられたら、何回でもシたくなっちゃう……」
頬を撫でた手がシェラの後頭部に添えられる。
内緒話でもするような声音でフロイドは囁くと、シェラの返事を待たずに唇が重ねられた。
大きくて重たい愛。
リップ音の合間に淫らな水音が鳴るような濃厚なキスを味わいながら、シェラはその言葉の意味を理解した。
「でもオレ、小エビちゃんが嫌なら我慢する」
唇を離したフロイドは切なげな表情を浮かべながら唐突にそう言った。
「オレ、小エビちゃんのことほんとに大好きだから……ここでサカって体目当てだとか思われんのはぜってーイヤ」
シェラの胸元に顔を埋めると、まるで繊細な硝子細工を扱うように、そっとシェラを抱きしめた。
その姿は、愛情と性衝動の結びつきと、シェラを大切にしたいという感情で葛藤しているようにも見える。
「思いませんよ、そんな風には」
顔を上げて、とシェラはフロイドの頭をぽんぽんと叩く。
シェラを見つめるフロイドは未だに不安げな表情をしていた。
いつの日か『ウツボは臆病な生き物』だと聞かされたことがあったが、フロイドがそんな心配をしているとは思っていなかった。
そんな心配をしなくても、フロイドの愛情は伝わっているから安心して欲しい。