第12章 8. 愛の狩人
ジェイドの背中が見えなくなるまで呆然と立ち尽くしていたシェラへ、真冬の風が容赦なく吹きつける。
我に返ったシェラは身震いしながら寮に入った。
冷えた身体を温めようとシェラは談話室に向かう。
扉の奥からは楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
この声は、エースのものだろうか。
シェラは談話室の扉を開けると、そこにはエースとデュース、それにカリムとジャミルがいた。
グリムは暖炉の前のロッキングチェアで丸くなってうたた寝をしていた。猫じゃないと言いつつ、こういうところは猫らしい。
似たようなものでシェラの故郷にも、『猫はこたつで丸くなる』なんて詞の歌もある。
最初にシェラが帰ってきたことに気づいたのはエースだった。
エースは帰寮したシェラへ、普段通りさっぱりと声をかけた。
「あーシェラおかえり。あれ、シェラ今日バイトじゃなかった――……、って!どしたのその顔!?」
「え、シェラ、殴られたのか……!?」
「えっと、ちょっと色々あって……」
エースとデュースはシェラの腫れた頬を見るなり、物凄く驚いた様子でシェラに駆け寄った。
デュースはシェラの手から荷物を取ると代わりに持っていってくれた。
ふたりに連れられて暖炉に近いソファに腰を下ろすと、今度はカリムが驚いて口をパクパクさせていた。
「シェラ!どうしたんだその怪我!?ジャミル!急いでシェラの手当てを……っ!!」
「えっ、あの……」
「落ち着けカリム。シェラの傷をよく見ろ。もう手当ては済んでいる」
シェラの手当てをするようにと慌てるカリムをジャミルは窘める。
ジャミルもシェラの怪我に驚いてはいるものの、大分落ち着いている。
普段から破天荒な主人に振り回されているだけのことはある。
お疲れ様です、とシェラは心の中でジャミルを労った。
「ふな……、うるせーんだゾ……」
エース達が騒がしいから、うたた寝をしていたグリムが目を覚ました。
迷惑そうな半開きの目を閉じると、まるで本物の猫のように後ろ足で頭の後ろを掻いた。
ブルブルブルッと身体を振ると意識が覚醒したのか、まんまるな目でシェラを見た。
「ふなっ!?シェラ、オマエその顔どうしたんだゾ!?」