第3章 2. 青空の涙
フロイドと図書館で一悶着あった翌日。
運動着に着替えたシェラは歩きながら髪をゴムで結んでいた。
短く切ったものの、結べるくらいの長さはあるから運動する時には邪魔になる。
肩につくかつかないかくらいの緩く癖のある髪を結ぶと、小鳥のしっぽみたいだった。
この日は朝から飛行術の授業で、運動着に着替えたクラスメイトは気だるそうに飛行場へ向かっていた。
気が進まないのは朝一番から運動だからではなく、朝一番からいかにも体育会系の熱い教師であるアシュトン・バルガスの授業だからだった。気が重いのはシェラも概ね納得で、朝からあのテンションは少し重たい。
シェラの両隣にはいつも通りエースとデュースが並ぶ。今日はグリムは自分で歩いている。
「そういやシェラ、昨日は大丈夫だった?」
エースは思い出したようにシェラに訊いた。
昨日、とはエース達がさっさと帰ってしまった後。フロイドとふたりで図書館に行った時のことだろう。
大丈夫といえば特に危害は加えられていないから大丈夫だが、別の意味では大丈夫ではなかった。
けれど、それを話すと変な誤解を与えてしまいそうだ。
シェラが、大丈夫だったよ、と言おうとすると、先にグリムが口を開いた。
「大丈夫じゃないんだゾ!こいつ昨日すごく疲れて帰ってきたんだゾ!」
「えっ?それってどういう……」
「そっか……リーチ先輩の相手だもんな、そりゃ疲れるよな……」
グリムの発言にエースが反応したところへ、デュースが言葉を重ねた。シェラは心の中でデュースに、『よくやった』と親指を立てた。
やましいことは何もしていないのは本当だが、変に誤魔化すと勘のいいエースに深掘りされそうだ。
「昨日私を裏切って帰ったのは誰だったかな……?」
「す、すまんシェラ、悪かったって……」
シェラは眉を寄せながらエース達をじろりと見ると、ふたりとも決まりの悪い表情を浮かべながら頬をかいた。
「なぁシェラ、お前なんであんなにフロイド先輩に気に入られてるんだ?」
ところで、と昨日の話題から別の話題にしようとエースが切り出した。が、シェラからするとあまり変わりのない話題で思わず唇の端がぴくついた。
「エビみたいで面白いからじゃない?」
「なんだそれ」